我に毛があり ゆえに我思う

髪のお手入れ

友人が育毛剤を力説する

女性だって髪に悩む

シャンプーあとの習慣としてスプレータイプの養毛剤を使っていた。
使い始めたのは友人の影響だ。

その友人は20代のときから使っていた。その頃のわたしに女性が養毛剤や育毛剤(実は両者の違いがよくわからない)を使うという感覚がなかった。

いまでこそ女性用の育毛関係あれこれや女性用ウィッグなどもひんぱんにCMされているが、ン十年前はそんなこともあまりなかったと思う。
当然若き友人が髪に困っている風ではない。

もう養毛剤使ってるの、と驚くわたしに友人は力説する。
将来泣きたくなかったら早め早めに対処するのよ、わたしが通ってる美容院のオーナースタイリスト(女性)も若い頃から使ってるっていってた。

その人はそれなりの年齢だけど、今も真っ黒できれいな髪をしてるのよ。
将来髪で泣きたくなかったら今からやるの、と。

根がめんどくさがりなので実際にわたしが養毛剤を手に取るまではしばらくかかったが、世の女性たちが髪に悩んでいるのを目にし、耳にするようになり、今からやらねば、と追い立てられるように使い始めた。

養毛剤といってもいろいろ種類がある。毎日使うものだからあまり高いと手が出ない。
だいたい基礎化粧品だって高い商品をケチって使うよりは、とドラッグストアでお手頃価格のものを買っているのだ。

勧められたのはとてもお高いものだった

地元のドラッグストアであれかこれかと養毛剤コーナーで悩んでいるときだった。
うーむ、けっこうピンキリなんだよね、これ。下は1000円ほど、上になると5000円近い。
どう効果が違うのかよくわからない。

唸っていると、スタッフのお兄さんがすすす、と近寄ってきた。
「養毛剤をお探しですか?」
ええ、そうなんですけどね。どれがいいかよくわからなくて。あまり使ったことないんですよね。
効果と金額のバランスをどこで取るべきか。

しばしお兄さんの説明をふんふんと聞いていたが、ふと、お兄さんの声が落ちた。
「実は店頭には置いていないんですけど、奥にとてもよく効く育毛剤があるんですよ」
なに、店頭にはない商品ですと。
それをこっそりわたしに勧めましたか?

なんだろう、真昼のドラッグストアらしからぬ秘密の匂いがするんですけど。
「○っていう商品ご存じですか」
お兄さんは超有名な男性用育毛剤の名前を告げた。
「あの商品の女性用なんですよ。レディース○です」

ほう、CMでは男性用ばかりを見るが、あの商品には女性用もあったのか。
CMが頭の中を流れていく。あれの女性版ならたしかに効きそうだ。

わたしの心の天秤はぐらぐらと揺れた。お兄さんがここまで自信たっぷりに言うならさぞかし効果は絶大なのだろう。どうせ使うなら効果が高いほうがいいに決まっている。
それで、そのレディース○はいかほどですかのう。
「6000円です」

ろ、ろくせんえん。
育毛剤1本に6000円ですと? 
1000円と1500円の養毛剤を両手に取って悩んでいたわたしにそれを言いますか。

同時になるほど、とわたしは納得する。6000円ならドラッグストアの商品としては単価はトップクラスのはずだ。
よそは知らないが、わたしの行きつけのドラッグストアはスーパー兼用のようなものなのだ。6000円は商品単価が高い。とてつもなく高い。

おそらく商品を店頭に置いていないのは万引き予防のためもあるのだろう。
ボーナスが入ったら考えます、とわたしはお兄さんに笑顔で会釈しつつ、1000円の養毛剤をかごに入れた。
6000円の育毛剤はいまだ手にしていない。

毛の問題はそこに行くのか

毛の問題は深いね

そういう話を友人のゾエとネギにしていたときだ。
「小金持ちに見えたのかねえ。6000円の育毛剤なんて、手が出ないっつーの」

でもそう言えばさ、とゾエが言う。
「会社の人で、育毛を促進するっていう薬を飲んでる人がいたんだ」
それは飲み薬らしいのだが、それを服用すると毛に効くらしい。
「効くの?」

効いてた、とゾエは断言する。
頭があぶなくなってた上司が、薬を服用しだして、見る間に黒々としてきたらしい。
「喜んでたんだけどねえ、お金が続かないって泣く泣く中断したらしい」
「高いんだね」
「高いんだよ」

そうか、毛の悩みはそこに行くのか。
でもさ、とネギが続ける。
「その話を聞いた別の同様お悩み持ちがいたんだけどさ、その人、俺は絶対やらないって言ってたって」
「なんでよ、やっぱり高いから?」
「いやその人独身だし。多分お金には困ってない」
「だったらなんでやらないんだろ。薄いんでしょ」
「かなりヤバい。んだけど、その薬、飲むとアレが役に立たなくなるんだって。彼女探すのにそれだと困るからってさ」
「婚活の順番間違えてるんじゃないの、毛が先でしょ、毛が。っていうか、役に立たなくなるもんなの?」

毛の問題だったはずが、いつの間にか下の問題にスライドしてしまった。
というか、スライドしてからが女3人の食いつきがいい。

しかり、とゾエがうなずく。
「頭の毛はねえ、ほら、女性ホルモンだからさ。薬っていうのもやっぱりそっち関係なわけさ。で、薬を飲むと女性ホルモンが増えて、結果アレがダメになると」

うんうん、とネギもうなずく。
「同僚の20代のコもやったらしいんだけど、やっぱりダメだって」
「盛りの20代でもダメになるの? ていうか、20代じゃ必要ないでしょ、毛の薬」
「いやいや、気にしてたらしいんだよ当人は。でもさ、飲んでるとしたくなくなるんだって」

恐ろしいな。毛の問題はそんなところにまで波及するのか。 
毛あるところに悩みあり。いや、ないところにこそ悩みありか。

とりあえずわたしは1000円の養毛剤で頑張ってみるよ。
そしていつの日にか6000円のレディース○を手にしてみせる!

後日談 数年後、わたしは6000円のレディース○ではないものの、ほぼ同じ金額の別の育毛剤を使っています。効果があると良いなあ!

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