汝、カラスと対峙する者

カラス

ちょっと前の話

1年くらい前の話

わたしはワープロソフトに1度文章を書いているのだが、書き溜めていると、ブログにアップするときにタイムラグが出てくるときがある。
となると、現時点とは少々状況が変わってきていたりもする。

しかしその時点でのリアルな話ではあるので、載せないのもアレだな、と思った。
いやけしてネタがもったいないとかではなくってだね。
令和7年現在、おそらく1年前ほどの話になるだろうが、お目にかけたいと思う。

運動していたらカラスに出会った

年齢と共に新陳代謝の機能は衰えてくるのだろうか。食べる量はそんなに増えていないと思うのだが、体重が少しずつ、しかし着実に増えてくる。
増える体重に反比例するように運動量は減ってくる。

会社勤めをしている頃はそれでも通勤だの社内の移動だので歩行運動をしていたはずだが、会社を辞めてからはその歩行運動の距離もめっきり減った。
これはまずいだろう、ということで、なるべくウォーキングをするようにした。なるべくね、なるべく。無理をすると続かないしね。

ごろごろしつつ、コーヒーを飲みつつ、豆菓子を食べつつKindleで電子書籍を読みふけるという有意義な一日を送ったある夏の夕方のこと、腹の脂肪がなにかを自分に訴えかけてくるように思えて、ウォーキングに出ることにした。

夕方の5時過ぎとはいえ、季節は夏でまだ明るい。ついでに暑い。
集合住宅の扉を出た途端に回れ右して戻りたくなったが、一度ウォーキングをすると決めたことをやめてしまっては女が廃るというものであろう。
覚悟を決めてわたしは歩き始めた。

わたしのウォーキングコースはいつも同じで、やや早歩きで一周小一時間のコースだ。
地元がやたらと川だの堀だのが多いところなので、コースの半分が川や堀沿いなのが気に入っている。

コースの半ばに大きな橋があり、途中から堤防沿いの道に曲がることができる。
夕方の時間のせいか、その日はやたらにカラスの姿が目立った。

カラスが鳴くのはカラスの勝手だろうが、数が多いだけに鳴き声(の合唱)が大きく響く。そして人間に慣れているのか、わたしが近づいても逃げようとしない。

なにかを口にくわえているカラスもいる。なにをくわえているんだろう? 食べ物のようには見えないけれど。あれで巣でも作るのだろうか。
カラスたちの足だけがやけに白く見えるのはなぜだろうと不思議だったのだが、泥がかわいてこびりついて白く見えるのだとわかった。

川の水位が落ちて、川岸には泥が目立つ。
それにしてもカラスが多いな。こんなに多いとヒッチコックの『鳥』みたいだな。『鳥』を見たことないけど。

えーと、わたしは敵ではありませんよー。無害な一般おばちゃんですからね。襲わないでね。
カラスにおもねりながらわたしは堤防を歩いていた。

カラスが多い!

カラスに対峙する者

近くの家からひとりの女性が出てきて、堤防にやってきた。年は、うん、わたしよりも若い。手に何かを持っている。よく見るとロケット花火だ。
堤防でロケット花火?

女性と目が合い、お互いに会釈をする。
女性は堤防の端にロケット花火をセットする。手に持っているチャッカマンと思われるもので火を点けようとしているが、なかなか上手く点かないようだ。

あれはもしかしなくてもカラス撃退用だろうか。
たしかに家がここの近くなら、鳴き声とかフンとかで大変だろう。

わたしは人間側にすばやく立ち位置を戻して、にこやかに女性に話しかける。
「カラス用ですか? 大変ですねえ」
女性もにこやかに返事をする。カラスがですねえ、多くて大変なんですよ。

ロケット花火に火が点いたと思ったら、セットした位置の問題か、いくらも飛ばずに落ちてしまった。
あらら、と二人で見送る。
カラスはびくともしていない。

女性はめげずに次のロケット花火に着火しようとする、が、これまたなかなか火が点かない。風が強いせいもあるのだろう。
わたしは被っていた帽子を脱いで風よけにする。あら、すいませんと女性が言う。

二人で奮闘(というほどでもないが)しているうちに、その場に、もう一人の人物が登場した。
中学生か高校生くらいの男の子。やはり手にロケット花火を持っている。
おそらく、というか確実に女性の息子だ。

新たに登場した少年がロケット花火をセットする。手早く着火する。
ぴしゅーんといい音がした。ロケット花火は見事に対岸の川岸まで届き、群れていたカラスが飛び立った。
おお、カラスが逃げていくよ。

少年は次のロケット花火をセットし、それも見事な軌跡を描いて、カラスがまた飛び立っていく。
わたしは少年に惜しみない拍手を送った。女性も嬉しそうに少年の肩を叩いている。

わたしは親子に会釈をして、ウォーキングの続きに戻った。親子も家に戻るようだ。
ちらりとカラスのことを思う。

おまえさんたちも人間社会で生きていくのは大変だろう。
共存するのは難しかろうが、でも人間を敵視はしないでね。

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