美人と一文字違いの悲劇

震える猫

あれは高校生の頃

昭和の話

これはわたしが高校生の時の話だ。
ええ今からン十年前の話ですねえ。なんせ昭和の頃ですから。

通っていた高校は実家から遠かった。自転車で通っていたのだが、なにしろ体力があるときなので、かなりかっ飛ばして漕いでいたと思うのだが、それでも片道40分はかかっていた。

けっこうな運動量だ。思えばあの頃はダイエットという単語とは無縁だった。(遠い目)

本題に入る。
高校は女子の数が多くて、男子の倍はいた。たしか1学年6クラスほどだったと思うが、その内3クラスは女子クラスだった。わたしは高校生活3年間のうち2年間は女子クラスにいた。あまり共学校に通っていたという実感がないのは気のせいだろうか。

さてその女子クラスにいた時の話だ。
学年が上がって、初めて教室に入った日のことだ。2年生だったか3年生だったか。
最初は名前の50音順に机に座っていた。

わたしは自分の後ろの席に美人が座っているのに気がついた。
高校は美人率が高かったので、それまでもクラスメイトに美人が多かったのだが(地味っこには肩身が狭いよ、まったくのところ)後ろの席にいたのはこれがまた美人だった。

高校生だよね、と聞きたくなるくらいの大人びた女優顔をしていた。
まあそれだけなら、わあ、美人がいる、で済んだのだが。

美人と名前がとても似ていた

なんの悲喜劇

その美人は、とてもわたしと名前が似ていた。
わたしの名前がオキハタアサヒなら、彼女の名前はオキハタアサノといった具合で、一文字しか違わない。

最初に机に座っていたときに、後ろの席にいた彼女から「名前が似ているねえ」と屈託なく言われたが、こちらとしては、勘弁してくれよ、だ。

こんな美人と名前が似ているなんてなんの罰ゲームなんだろう。
アイドルや女優と同姓同名で、からかわれたり、ぷーくすくすされた覚えのある人になら、このときにわたしが感じた絶望がわかっていただけるかと思う。

彼女はクラスでは当然に派手っ子グループにいたので、わたしとはさほど関わりはなかった。
さすがに高校2年だか3年だかになると、周囲もそこまでお子ちゃまではないのか、あからさまなからかいかたをされることもなかったように思う。

黒歴史として、わたしが忘れ去っているだけかもしれないが。
「オキハタさん」と遠くから呼ばれて、どっちを呼んでいるんだ、と戸惑うことはあった気がする。

それはわたしではない

わたしじゃないから

最初こそいたたまれなかったが、まあまあ平穏に日々は過ぎていたと思う。
ああ、そうそう。とてつもなくいたたまれないことがあったよ。思い出した。

学校で文化祭があったときだ。
どこぞの教室(だったか、廊下だったか)に、美人の女子生徒ばかりをパネル写真にして張り出しているという展示会(?)をしていたらしい。実際に見たわけではないけれど。
令和現在ならちょっとありえないことだろう。

友人が慌てた様子でばたばたとわたしに近づいてきて、言った。
「ねえ、アサヒの写真がパネルで展示されてるって!」

友人は興奮していたが、わたしは至極冷製、いや違う、冷静だった。
いや、それ絶対わたしじゃないから。オキハタ違いだから。

パネルになったのは女優顔の美人のほうだから。
力を込めて否定しておいた。

ちょっとだけ心が痛かった、ような気がする。

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