
ひっきーの悲劇
会社を早期退職した後は、短時間の仕事になった。
基本がひっきーなので、予定がない限り部屋に籠もっているのは昔からだが、仕事が短時間になったことで、部屋で過ごす時間が増えた。
会社員をしていた頃も、最後のほうはマスク姿で過ごすことが多かった。
現在も外ではマスク姿でいることが多い(すっぴん隠しという理由がある)。仕事中もマスクをしている。
一人暮らしをしているので、自宅にいるときはほかに話をする相手はいない。
なにがいいたいかというとだ、表情を動かさなくなってきたのだ。
自覚は多少はあった。あー、自分は今すごく無表情になっているなあ、と。
だがしかし、一人でいる部屋の中で、そのことをさほど気にしてはいなかった。
ある日、部屋で本を読んでいるとき、ふとソファの上で体勢を変えたときに、ドレッサーの鏡に自分の顔が映った。
わたしが使っているドレッサーは椅子を使わない背が低いタイプだ。
で、鏡にばっちり自分の顔が映っていたわけだが、自分でもちょっとぎょっとした。
すっぴんで眼鏡でひっつめ髪のおばさんが見るに堪えなかったというわけではけっしてない、いやない、ないはずだ。そう思いたい。
そうだと思った人は、わたしとちょっと二人で話をしよう。
表情が死んでいる

見てしまった
鏡に映った顔の、その表情の死にっぷりに驚いたのだ。
擬音をあてるなら、どよん、だ。どよん、以外のなにものでもない。
暗い、そして表情が死んでいる。おまえはもう死んでいる。
わたしはこんな顔で過ごしているのか、とだいぶショックだった。
読んでいた本を脇に置いて、とりあえず頬をマッサージした。効果のほどは不明だ。
そして思った。この顔はやばい、と。
ただでさえ年齢とともに肌は重力に負けてくるのだ。ゆるむ顎、たるむ頬、そして死んでいる表情……。いやだ、いやすぎる。
年齢はしかたがない。いやわたしも一応女性なものだから、年齢に抗いたいのはたしかだが、年齢なりの良さがあればよしとしたい。が、年齢以上のゆるみだのたるみだのは勘弁してください。
もっと表情筋を鍛えなければ、と思った。
お風呂上がりに化粧水や乳液を顔に塗り込みがてらのマッサージは以前からしていたのだが、それ以外になにができるだろうか。
とりあえず顔を動かそうではないか。
表情筋を鍛えよう

さあ大きく口を開けて
モノの本によれば、歌手、特に大きく口を開くオペラ歌手などは、常に表情筋が鍛えられていつまでも若々しいという。
なるほど、口を動かすというのは、表情筋を鍛えるのにはよさそうだ。
というわけで、この文章を入力しながらも、わたしは、あー、いー、と口を動かしている。なるべく大きく口を開くのだ。
いー、のときは口角を上に引っ張るのが効果があるような気がする。
パソコン画面を見ながら、あー、いー、と口を開いている女。端から見たらちょっと不気味かもしれない。いいんだ、わたしは一人暮らしだしな。
ウォーキングをしているときも、気がついたときは顔を動かしている。歩いているわ表情筋を鍛えているわで一粒で二度美味しいと満悦しているのだが、周囲に人がいないことを確かめないといけない。おかしな女が歩いていると噂になりたくないしね。
そういえば会社勤めをしていた頃は、鏡に向かって笑顔の練習などをしていた。
印象のいい笑顔を作る工夫をしていたのだ。
ちなみに印象のいい笑顔は口角をきゅっと上げて、目元を笑わせるのがこつだ。
鏡に向かって笑顔を作らなくなって久しい。どら、表情筋を鍛える一環として、今日は鏡に向かって笑ってみるか。

