クラッシャー上司

平気で部下を追い詰める人たち

怒鳴る上司と怯える部下

〈PR〉

筆者はこのかた

松崎 一葉(まつざき いちよう)
1960年茨城県生まれ。
筑波大学医学医療系産業精神医学・宇宙医学グループ教授。医学博士。
「クラッシャー上司」命名者の一人。本人著書の紹介文から抜粋

クラッシャー上司とはなにか

部下を精神的に潰しながらどんどん出世していく人
「クラッシャー上司」は、基本的に能力があって、仕事ができる。しかし、部下をときには奴隷のように扱い、失敗するとネチネチ責め続け、結果的に潰していく。
部下は心を病んで脱落していくが、「クラッシャー上司」自身の業績は社内でもトップクラスであることがほとんどだ。だから会社が問題性に気づいてもその者を処分することができない。次々と部下を潰しながら、どんどん出世してしまう

まず、クラッシャー上司、という言葉の音にどきりとしてしまう。
クラッシャーというと、なにか機械や物を壊す人なのかとも思ってしまうが、このクラッシャーが壊してしまうのは人だ。部下を壊していく。


ちなみにこの本の副題は「平気で部下を追い詰める人たち」だ。
筆者がある大手広告代理店で、常務だという人に言われたセリフが恐ろしい。それは、
「俺はね、五人潰して役員になったんだよ」というものだ。(このセリフは本の帯にも載っている。クラッシャー上司の特徴をよく表しているものなのだろう)
その言葉を言ったときの常務とやらがどんな様子だったのかはわからないが、筆者たち産業精神医学を専門とするメンタル不全の対策チームをあからさまに邪魔にし、追い出しにかかったというあたり、想像がつこうというものだ。

クラッシャー上司は、自分の部下を潰して出世していく。
そういう働き方、生き方に疑問を持たないどころか、自分のやっていることは善であるという確信すら抱いている者たちである。
そして、潰れていく部下に対する罪悪感がない。精神的に参っている相手の気持ちがわからない。他人に共感することができない。
自分は善であるという確信。
他人への共感性の欠如。
この二つのポイントは、どんなクラッシャー上司にも見て取れる特徴だ。

日本人の働き方にもよるのだろうか、クラッシャー上司は日本特有の現象であるらしい。

他人の痛みがわからない。共感することができない、罪悪感がないということは、潰れていく部下を見ても、まったくの他人事だということだ。
「クラッシャー上司」という言葉を聞いたらあの人(たち)の顔が浮かんだ、という会社員は少なくないだろう。

そういうわたしにもいくつか浮かんでくる顔がある。
わたしが思い浮かべたそのクラッシャー上司は、ほとんど潰れているわたしに、なんとも見当違いの励ましや同情の言葉をかけてくれたものだった。
潰れてしまうまでのさんざんな言葉とはえらい違いだな、と思ったものだが、そのときのわたしにはそれを指摘する気力すらなかった。
あのときのわたしにせめてグーパン、とはいわないが一言もの申すくらいの元気が残っていればと、今でも時々思う。

あのとき、もう少し元気があれば!

クラッシャー上司と部下の関係にも相性のようなものがあるようだ。
ある部下は上司のクラッシャーぶりに耐えられずに潰れてしまうが、違う部下になると、案外上手く上司とやっていけたりするらしい。
我が身を振り返っていうわけではないが、真面目で責任感の強い、上司の言うことだからここは自分がなんとかしないといけない、と思ってしまうタイプは、典型的な悪い相性といえるだろう。

あなたが苦しんでいることに、クラッシャー上司は気づかない

クラッシャー上司の性質

課長Bは、人を褒めるという行為ができない。マイナス部分の指摘ばかりで、他者のプラス部分を見ないのだ。
多くの人は、仕事で褒められ評価されたいという「承認欲求」があることで、やるべきことを頑張ることができる。だから、職場の上司の仕事のうちとても重要なのは、部下の承認欲求を満たす上手な「褒め方」なのである。

なぜ直属上司は 中略 わざわざ部下のやる気を失わせるような、暴言を吐くのか。
余裕がないのだと思う。余裕のなさが、部下が失敗して落ち込んでいることへの「共感」を失わせたのだ。 中略 社内全体がいつも結果を出すことを迫られて、息苦しい空気になってしまっているのだ。だから、よっぽど自覚的でないと、人のやる気を壊すような、八つ当たりとも取れる攻撃的な言葉を相手にぶつけてしまう

環境が作るクラッシャー上司もいる。性格的なクラッシャーではないのにクラッシャーになってしまう人は社内の雰囲気、空気に晒されて(毒されて、ともいえるか)クラッシャーになってしまうのかもしれない。

重圧は、上の立場のクラッシャー上司から下の立場のクラッシャー上司へ向かっていく。
向かわせる「下」がない人、あるいは性格的に「下」に向けられない人は、自分が重圧を受け止めることになってしまう。どれくらい重圧に耐えられるかは人それぞれだろうが、いずれにしてもじわじわとむしばまれていってしまうことだろう。

「真面目な部下」は、理不尽な重圧を受けているのに、重圧に耐えられないことをも自分のせいだと思ってしまい、自分で自分を追い詰めていく。
こうなると、自分を責める必要はないという当然のことにも気づくことができない。
今の状態を自分の力不足のせいだと思ってしまう。

クラッシャーは自分の家庭もクラッシュさせている

書籍には興味深いことも書かれている。クラッシャーの家庭は、崩壊していることが多いというものだ。
クラッシャー上司の特性として繰り返し書かれている、「自分は善である」という確信、他者への「『共感性の欠如』ゆえの鈍感性」が家庭内でも発揮された結果ということなのだろうか。

クラッシャーの家庭は実質的に崩壊していることが多い。子供は不登校や非行、妻はうつ病やアルコール依存症などになっているケースがある。
クラッシャーは部下だけでなく、自分の家庭もクラッシュさせてしまうのだ。

クラッシャー上司への対策

SOC ストレス状況を乗り切る心の資質
・有意味感(情緒的余裕)
・全体把握感(認知の柔軟性)
・経験的処理可能感(情緒的共感処理)
中略
「有意味感」とは、辛いことや面白みを感じられないことに対しても、何らかの意味を見いだせる感覚のことである。
中略
「全体把握感」は、時系列(プロセス)を見通せる感覚だ。
中略
「経験的処理可能感」は、今までの成功体験に基づいて、「ここまではできるはず」と確信し、「ここからは未知の部分」と早期に援助希求できる感覚だ。

有意味感、全体把握感、経験的処理可能感。これら三つの感覚が備わっているSOCの高い人は、つまりレジリエンス(自己治癒力)が高いのである。強靱な精神力の持ち主というイメージだ。

助けの必要を把握し、速やかに援助を求めるということは、実はできそうでなかなかできないものだ。援助希求ができる人はメンタルが強いし、成長しやすい。援助希求ができない人ほど、メンタルで潰れやすい傾向がある。

クラッシャー上司を理解する

彼らはどんなに偉そうで、自信たっぷりな様子をしていても、その実は小心者であり、臆病者でもあり、不安と焦燥感にいつもかられている。
その不安定な人間が、自分にとって気に食わないことが起きると幼児退行してハラスメントを行う。あるいは他人に共感ができない、コミュニケーション能力に乏しい人間なのである。
「そんなしょうもない人間である」と認識することが最初に必要なのだ。クラッシャー上司は仕事がデキるし、頭の回転が速いので、圧倒されがちだが、しょせんは未成熟な人間なのである。

クラッシャーとして部下を壊してきた人が、自分の家庭もクラッシュさせ(自分に非があるとは思っていない)あげくに自分自身もクラッシュさせていくという話もこの本には載っている。
そこから読み取れるのは、クラッシャー上司の、人間としての未熟さ、弱さだ。
クラッシャー上司に悩まされている人が読んだら、自分はこんな未熟な人間にここまで悩まされ、苦しめられているのかと驚くのではないだろうか。

この本にはクラッシャー上司への対策法も書かれている。すべてをその通りに行うことは難しいだろう。
さんざんクラッシャー上司に悩まされてきて、自分自身にだって余裕はないのだ。
頑張って対策法を行っても、結果や効果が出ないことだってあるだろう。
あなたが致命的なまでに壊れてしまわないうちに、最後にこの文章を引用したい。

おかしいことはおかしい、間違っていることは間違っている、と正しい主張を繰り返しても、まったく上が変わらないようであれば、それはあなたがその組織を見限るタイミングなのかもしれない。

あなたが理不尽に耐える必要はまったくないよ

〈PR〉

タイトルとURLをコピーしました