出会い頭のポリシー

出会い頭

ぶつかりそうになったとき

角を曲がったとき、あるいは扉を開けたとき、ふいに誰かとぶつかりそうになるときがある。どちらに非があるわけでもない。
そんなとき、あなたはどんな対応をするでしょうか。

やはりスマートな対応は、自分も相手もお互いに詫びることだろうか。
「あ、ごめんなさい」「こちらこそ、すみません」
これだ。どちらも少しうっかりしていて、でもどちらも悪くない。
これなら気持ちよく相手と別れることができるというものではなかろうか。

その昔、出会い頭にぶつかりそうになったときに、詫びの言葉を言わない同僚がいた。
社内を歩いていて、階段を上がりきったときなどに、ふいに出会う。

うわ、とわたしは思う。
彼女は、きゃあ、と悲鳴を上げる。

見事な悲鳴に驚いて、あ、すいません、とわたしは謝る。
いえ、と彼女は答える。
こんなことが何度か起こった。

彼女は見事な悲鳴を上げる

お見事な悲鳴が……

廊下の角を曲がった瞬間、彼女とぶつかりそうになる。驚いて足を止める。
彼女が高い悲鳴を上げる。それに驚いてわたしが謝る。
いえ、と彼女が答える。この繰り返しだ。

正直、もやっとした。
出会い頭にぶつかりそうになったのは、お互い様のはずだ。
なのに、わたしが謝る、彼女がそれを許す、という図式ができている。
非があるのはわたしだけなのか?

わたしは非を許してもらわなければいけないことをしたのか?
ぶつかりそうになったときに、自分は謝らないというポリシーを彼女は持ってでもいるのか。

小さなことを気にしていると我ながら思う。
謝って済むなら詫びの言葉をとりあえず口にしておけばいい、それでその場が収まるならばそれでいいとも思う。

だがしかし、この湧き上がるもやもやをどうしたらいいものか。
うう、もやもやが溜まっていく。
こうして文章にして昇華していくしかわたしに術はないのか。

おお、今度は先に悲鳴を上げたぞ。結果は

なぜこんなに何度もぶつかるのか

そんなある日、またもや出会い頭に彼女とぶつかった。
狭い会社とはいえ、どうしてこんなに何度も彼女とぶつかりそうになるのか。

わたしだって、どうせ曲がり角でぶつかるなら転校生のイケメンがいい。
食パンをくわえて走っていないとダメだろうか。

それはそうとして、扉を開けた瞬間だった。彼女も向こうから扉を開けようとしていたらしい。
なにか考え事をしていたわたしは、ふいに目の前に現れた彼女の姿に驚いた。

きゃ、とわたしの口から悲鳴が出た。
おお、女子っぽい悲鳴が出たよ。いつも、うわ、とか思うだけなのに。
彼女とぶつかりそうになったときに、わたしが先に悲鳴を上げたのは初めてのことだ。

悲鳴を上げたあと、やった、とわたしは思った。
今日はわたしが先だったよ。さあ、どうする。

彼女は悲鳴を上げたわたしの顔を、つかの間、真顔で見た。
そして、
「きゃああ」
真顔のまま、高らかに悲鳴を上げた。

「あ、すいません」
結局わたしが謝った。
くそう、彼女のポリシーに負けたわ。

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