あの頃の縁日

氷イチゴ

子どもの頃の縁日の話

子どもの頃、縁日に行くのは特別な日の楽しみだった。
親と手をつないで、提灯の灯りを受けた夜店を眺めながら歩く。
普段は固い母の財布の紐もこのときばかりは多少は弛んで、リンゴ飴やらヨーヨーやら、あるいは小さなアクセサリーやらを買ってもらった。

大人になった今でも砂利道の両脇に並ぶ夜店を見るとわくわくする。財布の紐を固くしているのは母ではなく自分なので、なにかを買おうと思ったら吟味が必要だ。

さてそんなわくわくの夜店だが、わたしの子どもの頃は今では出すのが無理だろうと思われるような少々エグいものもあった。
まあ時代なんだろうが、今回はそんな昔の夜店の話。

色つきのひよこ

カラフルなひよこがぎっしり

一抱えほどの箱の中に、ぎっしりとひよこが詰められていた。ぴよぴよと鳴き声があたりに響いている。
ひよこの中には色鮮やかな色つきのひよこがいた。ピンクとか青とか赤とか緑とか。

子どものわたしは、どうやって色つきのひよこが生まれるのだろうと不思議に思い、周りの大人に聞いてみた。
親だったのか親戚だったのかは覚えていないが、大人の答えは「卵に色を塗るんだ。そうすると、卵の色を吸収して色つきのひよこが生まれるんだよ」だった。

大人の優しい嘘なのだろうが、子どものわたしは、へー、そうやって生まれるのか、とすっかり信じた。わりと何年も信じていた。我ながら単純、いや違う、純粋だ。

考えるまでもなく、色つきのひよこの染色方法はなかなかに酷なものだろう。あの時代ならなおさらだ。
子どもの頃でも、色つきのひよこはあまり長くは生きないという噂があった。

現在の縁日で、色つきのひよこを見ることはない。そもそもひよこの販売自体を見ることはない。
かわいらしい鳴き声が聞けないのは少し寂しい気もするが、そのほうがいい。

お札入りヨーヨー釣り

縁日といえば今でもヨーヨー釣りは名物だろう。
釣るヨーヨーもあったし、1個いくらで買うヨーヨーもあった。

釣る自信がまったくないわたしは、もっぱら買うほうでヨーヨーを手にしていた。
子どもの頃のある日の縁日で、ヨーヨー釣りの前に何人もの子どもたちがいた。

ずいぶん人気のあるヨーヨー釣りだな、とそこを覗いてみた。
水を入れた大きな箱の中に何個ものヨーヨーが浮いている。

ヨーヨーにはさまざまな模様が描かれていて、模様の色が濃かったり薄かったりしたが、そのうちのいくつかのヨーヨーの中に畳んだお札が入っているのが見えた。

当時のことなので、たしか500円札だったと思う。
子どもたちが狙っているのは当然お札入りヨーヨーだ。

先を争うようにしてヨーヨー釣りにチャレンジしている。
子ども心に、エラい商売してるなあ、と思った。

ヨーヨー釣り自体が難しいだろうに、お札入りなんて、濡れたらあっという間に切れるような弱いこよりを渡されそうだ。あるいは、お札入りはヨーヨーの口が深く水に沈んでいて釣れにくくなっているとか。

あれは客寄せのための『見せヨーヨー』なのだ。
ということを考えるあたり、子どもの頃のわたしもあまり性格はよろしくない。

見世物小屋

ええぇ、これなの……

これは夜店ではなく、昼間の興行だった。今ではまったく見ることはないが(どこかで今もやっているのだろうか)子どもの頃は、見世物小屋が開かれることがあった。
小屋の前では呼びこみが派手な口上を述べている。

そのときの見世物小屋は『獣に育てられた女が発見された』ではなかっただろうか
どこかの山奥で、人の言葉を話すことができない女が発見された。どうやら獣に育てられたようだ、という口上だったと思う。

その小屋を見たのは小学校の高学年のときだったと記憶しているが、それはもう興味をかき立てられた。入りたくてたまらなかった。
見物料金は子どもにはけっこう高いものだったが「お代は見てのお帰り」の小屋に、友だちと一緒に入った。

小屋には狭いステージが作られていて、そこにひとりの女性がいた。
年齢は、いくつくらいだろうか、30代後半くらいだったろうか。

ぼさぼさの髪をして、簡易的なワンピース、というより布きれのような服を纏っていた。
『獣に育てられた』らしいその女性は、ステージの上をのしのしと歩き、ときどき威嚇するように観客に向かってポーズを取り、うなり声のようなものを上げた。

子ども心に、ええ、これ? と思った。
わくわくした気持ちはあっという間にどこかへ消えた。ちょっと信じていた自分がたまらなくお馬鹿に思えた。

女性は、作り物なのか本物なのかわからないが、首を落とした鶏(っぽいもの)を頭上に掲げ、切り口から落ちる赤い液体を大きく開けた口の中に入れたりしていた。

子どものわたしは、うわあ、と思いながらも、なぜ山奥で見つかった女性が銀歯を入れているんだろう、と思っていた。
生きていくって大変だな、と思っていたあたり、やはりあまり性格はよろしくないよう。

赤い液体を飲むのがメインイベントだったようで、その後はすぐに見世物は終わった。
友だちと小屋の出口に向かう。友だちの顔にも、期待外れ、と書かれていた。

小屋を出るときに当然料金は払わなければいけなかった。
小屋を出てすぐ、小学校のクラスメイトと会った。
「これ、見たの?」とクラスメイトは目をきらきらさせながらわたしと友だちを見た。

「うん」とわたしは言った。
どうだった、と興味津々でクラスメイトは聞いた。料金分の見応えはないなと思っていたわたしは返事に詰まった。

一緒にいた友だちが「面白かったよ。鶏の血とか飲んでた」と続けたので、クラスメイトは、見たい見たい、と一緒にいた親の手を引いた。
えー、そうでもなかったよ、と思ったわたしがヒネているのか、さほど面白くない見世物と知ってクラスメイトを唆した友だちがヒネているのか、どっちだろう。

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