
仕事帰りの駅のホームで
ある日の仕事帰りの駅のホームで。
わたしはもうじき来る電車を待ちながらスマホで電子書籍を読んでいた。
わたしの2歩先の場所には制服を身に着けている女子高生がいる。
女子高生が後ろも見ずに突然後ずさってくるので、あやうくぶつかりそうになった。
あぶな、ぶつかってスマホ落ちてデータが死にでもしたら沖端泣いちゃうよ。
おいおい、と顔を上げたら女子高生はなんとも不思議な動きを続けている。
後ずさったりサイドステップを踏んだり前に進んだりまた後ずさったり。
奇妙なダンスを踊っているようにも見えるけど、えーとお嬢さん、どうしました?
女子高生は鳩と踊る

どしたの、お嬢さん?
不思議な動きの原因はすぐにわかった。
女子高生の2メートルほど先の場所を1羽の鳩が歩いている。
首を振って鳩が歩くのをじっと見つめながら、鳩に合わせて女子高生も動いているのだ。
その動きはだんだんと大きくなり、鳩の周囲を弧を描くようにくるくるとステップを踏んで回りだした。
鳩が近づこうものなら後ろも見ずにバックする。だからそれをするとわたしとぶつかりそうになるってば。
予測のつかない鳩の動きに合わせる予想のつかない女子高生の動きに、わたしはもはやスマホで本を読むどころではない。
もしや鳩が恐いのか? 鳩が苦手という人は一定数いそうだが、なら鳩が来ないような離れた乗降口まで移動したほうが早いんじゃなかろうか。
しかし女子高生は鳩から離れるでもなく鳩に近づくでもなく、くるくると半径3メートルほどの場所を動き回っているだけだ。
沖端思わず女子高生をじっと見つめてしまったよ。
ぶつかりそうになったからか女子高生もわたしのほうを見ていたけど、女子高生は微笑みを浮かべていたよ。
笑みを浮かべたまま、やはりくるくると動いている。
なぜに女子高生はくるくるしているのか

ああほら、ぶつかった
いくら地方の私鉄の駅だからって、通勤時間帯でそこそこ並んでいる人がいるんだからそんなにくるくるしていたら人にぶつかってしまう、ああほら、ぶつかった。
女子高生はぶつかった人にも微笑み返しをしている。
どうした女子高生。
いったいなにをしたいんだ、女子高生。
もしや近くに意中のイケメンクラスメイトでもいるのか?
「見てたぜ、昨日。おまえホームで鳩から逃げ回ってただろ」
「だって鳩が追いかけてくるんだもん。やだ、○○クン(イケメンクラスメイトの名前)見てたんだあ」
的なものを狙っているのか?
いや、いまどきの女子高生にこれはちょっとないか。
「ちげーし。鳩から逃げてなんかないし。ただほら、あの歩きかたがなんか、なんていうか、ちょっとほら、恐いっていうか、ちげーし、恐くなんかないし」
って、そっちなのか。
しかしお嬢さん。
そろそろ『鳩さんとわたし』の世界から戻っておいで。
ほら周囲の人たちの視線がだんだん寒色系になってきたよ。
次はもっと人の少ない夕方の公園とかでしようよ。
イケメンクラスメイトを連れてくるのにわたしも協力するからさ。