蛇を首に巻いた日

緑の蛇

沖縄で蛇を

あなたは蛇を首に巻いたことはありますか。
わたしはあります。

会社の社員旅行が沖縄だったんですよね。今からン十年前の話ですけどね。
首里城とかいろいろ見て回りましたよ。沖縄は異国情緒があっていいですね。

そのときの観光メニューのひとつに『ハブとマングースの闘い』があったんです。
今は動物愛護法の関係で禁止になったんですよね。
その当時はハブとマングースの闘いをショーとして見ることが目玉のひとつだったと思いますよ。

ハブとマングースもですねえ、職業ファイターじゃないんですから、毎日毎日争わされたんじゃやってられませんよねえ、疲れますし。
せめて演出でもつけてくれればいいんですけどねえ。

俺がここで1回鎌首もたげてシャーっていうから、おまえはそっちで牙を剥け、とか。
で、おまえが飛びかかってきて俺の首に噛みつく。本当には噛むなよ、痛いからな。フリだ、フリ。そうしたら俺がおまえにちょっと巻きつく、締めつけないから安心しろ。で、おまえが素早く身を翻して俺から離れて、今度は体勢を低くして俺を威嚇する、っていう流れでどうだ。
みたいな感じですかね。

それは観光客へのサービスだった

いい記念だよねっ

たしかその場所で蛇を観光客の首に巻きつけて写真を撮るというサービスをしていたんですよ。
蛇はかなり大きかったですね。1メートル半か2メートルくらいはありましたか。

司会者の人が客席に向かって言うんですよ。
「蛇と一緒に記念写真を撮りませんか」ってね。
勇気ある観光客が次々にステージに上がっていきます。

蛇の種類はなんだったんでしょうね。おとなしい蛇のようでしたよ。
観光客はおっかなびっくりっていう感じで肩に蛇を乗せて、頭と尾っぽをそれぞれ手で持ってポーズを取っていました。
マフラーみたいに首にぐるっと巻きつけている猛者もいましたね。

それを見ているうちに、わたしもやりたくなってきたんですよ。
え、沖端は蛇が好きなのか、ですか?
いえいえ、わたしは足がないのと足が多いのはちょっとご勘弁です。

苦手なのになんで蛇と写真を撮りたいと思ったかですか?
なんといいますか、せっかくの機会だからといいますか、少しばかり多めの好奇心がわたしをそうさせるといいますか。

「面白そうだよねえ」と、隣に座っていた後輩女子に話しかけたらですね、なにかを感じたんでしょうか、後輩女子2人が同じタイミングで顔を逸らしましたね。

嫌だなあ、無理につきあわそうなんて思ってませんよ。
やってみたいけど、ひとりで蛇を首に巻くのはちょっとねえ、みたいな?
ほら2人で一緒に巻いている人もいるし、あれだったらわたしもできるかなあ、なんてね。

プッシュされた同僚男性

とか思っているうちに、なぜか隣に座っていた後輩女子2人が、ひとりの同僚男性をプッシュし始めたんですね。
いわく、

「○○くん、沖端さんが蛇を巻いてみたいんだって。沖端さんと一緒に写真撮りなよ、ほらほら!」
突然名指しされた○○くんは、え、俺? みたいな顔をしています。

わたしも、え、彼? とか思いましたけどね。
後輩女子はなおも熱心に○○くんに蛇と写真を取るべきだとアピールしています。

わたしはそんなに誰かと蛇の写真を撮りたそうに見えたのでしょうか。
先輩想いの後輩女子2人というべきか、巻きこまれたくない後輩女子2人の必死の生け贄探しというべきなのか。

○○くんはけっこうノリが良かったのか、それともここまでプッシュされてビビるわけにはいかないと思ったのか、わたしと一緒に蛇を巻いてくれることになりました。
○○くんと2人でステージに上がっていきましたよ。
後輩女子2人はとてもいい笑顔で見送ってくれました。

蛇を巻いた

蛇の体はちょっとひやりとして、とてもさらさらしていました。
もっとぬるついているのかと思ったので、意外でしたね。

○○くんが首のほうを、わたしが尻尾のほうを巻いて、記念写真を撮りました。
満面の笑みを浮かべているわたしと、うひょ、という顔をしている○○くんの表情がいい対比になっていましたね。

その写真は記念にテレホンカードにしてもらいました。
ええ、テレホンカードです。時代を感じますね。
当然別料金ですよ。あちらもお仕事ですからね。

今はテレホンカードを使う機会もほとんどありませんがね。
あのカードはどこへしまったんでしたっけ。穴を開けたくなくて使わなかったんですよね。
実家のわたしの部屋のどこかに、満面の笑みで蛇を巻いたわたしの写真のテレカがありますよ。

我ながらいい笑顔でした

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