仏の顔も三度

仏
仏の顔も三度(ほとけのかおもさんど)

どんなに温厚な人でも、何度も無礼なことをされれば怒るというたとえ ──新明解故事ことわざ辞典

愛想がないね


その日わたしは駅の中にあるカフェに立ち寄っていた。
いや、カフェというほどおしゃれな雰囲気のお店ではないか。
昔からある、チェーン店でもない、喫茶スペースという感じのお店。

同じく駅の中にあるス○バやタ○ーズにお客を取られたか、あまり来店客が多いわけではないよう。
しかしわたしは、このどこか昭和な雰囲気が気に入っていて、時々立ち寄っていた。
(ス○バはおしゃれな上に注文の仕方が難しく思えて腰が引けるというのもある)

この店は最初にお金を払うシステムなので、入り口入ってすぐのレジで注文をする。
たしか小腹が空いていたのでホットサンドセットを注文したように思う。

レジにいたのは若い女性だった。
愛想という言葉をどこかに忘れてきたかのような応対だ。注文のやりとりもなんとなくぶっきらぼう。
まあ、よくあることだ。スタッフの愛想がないくらい、文句を言うほどのことでもない。

飲み物だけならその場で受け取るのだが、そのときは食べ物も頼んでいたので、席について待つことになった。
窓際のテーブルで本を読んで待っているうちに、わたしが注文したホットサンドセットが届いた。

トレイにコーヒーが溢れてるよ


持ってきてくれたのは、先ほどレジで応対した女性スタッフだ。
お待たせしました、とテーブルの上にトレイを置く。
トレイの置きかたがやや雑だったのはいいとしよう。しかし、だ。

トレイの上にホットサンドが乗った皿とサラダの小皿とコーヒーのマグカップが乗せられている。
A4サイズほどと思われるクリーム色のトレイの、底が見えないくらいにコーヒーがこぼれていた。

トレイの底が見えないくらいコーヒーが

いや、トレイの底が見えない量を、こぼれているという表現はおかしいか。
トレイにコーヒーが溢れているというべきか、あるいはトレイにコーヒーの波ができているというべきだろうか。

マグカップのコーヒーは、やや量が少なめだったが、それほどでもない。
うん、注ぎすぎだね!

わたしはあっけにとられて目の前に置かれたトレイを見た。
スタッフの女性はそのまま戻ろうとする。
すみません、とわたしはスタッフの女性を呼び止めた。

カップはそのまま?

女性が無言で体半分振り返る。
「すみません、トレイを取り替えてもらえますか」
こういうときに、半笑いの顔になるのは小心者の証拠だ。

ああ、という感じでスタッフの女性はトレイを取り上げた。
お詫びめいた言葉はない。
スタッフの女性はすぐに戻ってきた。どうぞ、とわたしの前にトレイを置く。
今度のトレイはきれいだ。ほっとした。
やはりお詫びめいた言葉はなく、女性はそのまま背を向けた。

マグカップのコーヒーを飲もうとして、気がついた。
白いマグカップに、コーヒーが垂れたあとが一面に残っている。
どうやらトレイのみを取り替えて、カップはそのままだったようだ。
茶色の液体が一面に垂れた白いマグカップ、こんな模様がどこかの焼き物にあったね。

わたしは有名な焼き物を彷彿とさせるマグカップのコーヒーを飲み、ホットサンドとサラダを食べた。
返却口にトレイを置いて店を出る。

仏の顔も三度。三度使い切ってもヘタれはヘタれ。

……ヘタれなんです

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