怒りは(恐竜なみに)遅れてやってくる

ちゃぶ台返し猫

それは突然の電話だった

その電話は疲れた体をひきずって帰宅の途についているときにかかってきた。
スマホに表示されているのは誰かの携帯番号。番号しか表示されないということは登録していないということで、おそらくはまったくの他人。

この手のパターンは高い確率で間違い電話だったりするので、普段なら取らずにスルーするのだが、そのときはなぜか電話に出てしまった。(疲れて頭が働いていなかったのかもしれない。いや待て、週末だったからちょっと浮かれていたのかも)

しかし警戒心は働いていたので、わたしは名前は名乗らずに「はい、もしもし」とだけ言った。
電話の向こうから聞こえてきたのは若い男性の声だった。
「もしもし、わたし○○会社といいます」

わたしは名乗らなかったが、向こうもわたしの名前を確認しようとはしなかった。
まともな用件である場合「沖端さんの携帯番号で間違いありませんか」と聞かれたりするものなのだが。

これは手当たり次第にかけている営業電話かと、一瞬電話を取ったことを後悔したが、結果からいえば間違い電話でも営業電話でもなかった。
住んでいる集合住宅の管理会社の社員からだった。

管理会社の番号なら登録しているのに、なんで会社からじゃなくて携帯からかけてくるんだ、まぎらわしい。
帰宅途中の路上で電話を取ったので、話をしながら邪魔にならない場所を選んで道の端(というか建物の角)に寄った。

立ち止まると師走の風が冷たく吹きつけてくる。
わたしは寒さに身をすくめながら相手の話を聞いた。
聞いてはいたがよくわからない。

家賃が未払いですと?

なんて言いました、今?

男性は言う。わたしの家賃が1ヶ月分未払いになっていると。
こうして書くとなんて人聞きのよろしくない内容だろう。

借金は嫌いだしローンも嫌い。即金かカードの1回払いで買えないものは買わない。誰かとお金の貸し借りをするのは苦手。うっかり立て替え払いでもしてもらおうものならお金を返すまで落ち着かないという、金銭に関しては実にクリーンだと自負しているわたしに、家賃を払っていないと言いましたか、キミ。
(そういや、会社名しか名乗ってないね、キミ)

ここで少し事情を説明しよう。わたしが住んでいる集合住宅の管理会社はその年に変更になっていた。それまでは部屋を契約した不動産会社と管理会社は別で、わたしは管理会社に家賃を払っていたのだが、その年から不動産会社に直接家賃を払うようになったのだ。

電話をかけてきた管理会社とは不動産会社でもある。
家賃を管理する会社が変わったおかげで、家賃の口座引き落としの手続きもやり直しをしなくてはならず、当然銀行への手続き手数料も支払わなければならず、こちらの都合ではない手続きと出費は大変面倒で痛かった。

不動産会社の社員は言う。
管理会社の変わった月の家賃の振り込みがされていない。その後はつつがなく振り込みがされているが、変更になった月だけが支払われていない、と。

管理会社が変わった月とは2月(だったらしい。今は師走だ)だが、その月の支払いがなされていないとはどういうことか。
管理会社から手続きをするよう書類が届いたときに、わたしは間を置かずに銀行に行った。(だって早く済ませないと落ち着かないじゃないか)

そもそも家賃の支払いは口座引き落としだ。振り込みじゃない。
あのタイミングで変更月の支払いに間に合わなかったとはいわせない。

いや待て、もしかして管理会社が切り替わるタイミングのときだけは振り込みだったか?
わからない。だがそうだとしても、わたしのことだから速攻銀行へ行ったはずだ。だってそうしないと落ち着かない。

にしても10ヶ月前のことなんて覚えてないわ。いっそのこと10年前のことを聞いてくれ。20年前でもいいぞ。
というか、2月分を払っていないという連絡が、なぜ12月にくる?

ちょっと考えれば男性の話は突っこみどころがありありだ。
2月分の家賃が引き落とされていないことに気づかなかったわたしもわたしだが、それはわたしのせいなのか?
わたしが『家賃を振り込まなかった』せいなのか?

しかし電話をしている間、わたしの頭はあんまり働いていなかった。
「家賃って振り込みじゃなくて口座引き落としですよね」とかろうじて疑問を口にした。電話の向こうで男性はちょっとうろたえたようだった。

それまで何度も繰り返して「振り込みをされていなくて」と口にしていたのに、話を逸らしてきた。
結局男性が言いたかったのは、次回に2ヶ月分の家賃の引き落としをする、ということらしい。
「じゃあそうしてください」と答えたら、やけに安心した声で返事をして電話を切った。

怒りは遅れてやってきた

突っこみたいんだけど! 遅いけど!

繰り返しになるが、あんまり頭が働いていなかった。
電話を切って、たっぷり5分は経ってから、上に書いたようなことを猛烈に突っこみたくなった。

払うけどさ、住んでいるんだから、当然家賃は払うけどさ。
なんだろう、すごい腹が立つんですけど!

これって寒風が容赦なく吹きつけてくるせいなのかしら!
つーか、なぜそのときにあれこれ突っこめないかな、自分。
頭の回転鈍すぎないか、自分。
とっさに頭も舌も回らなくて、何回悔しい思いしたかわかってるのか、自分。

しょうがないじゃないか、回らないものは回らないんだよ。だいたいすぐ頭と舌が回転してその場で相手をやりこめるタイプだったら、こうして文字に書いてもやもやぐるぐるを昇華させる必要なんてないからね。

神様はいじわるじゃない。悔しさを噛みしめるかわりに、こうして言葉を連ねる喜びを与えてくれる。
というわけで、つらつら書いているうちにすっきりしたので寝ます。
明日もいい日でありますように。

平穏な一日と、辛いけどネタのある日だったら、どっちがいい日?

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