事件は駐車場で起こっている

駐車場

事件その1 カップルが痴話ゲンカをしている

駐車場でいろんなことが起こるんだよ

職場は駅にも繁華街にもほど近い場所にあった。それゆえというべきだろうか、ときどき事件が起こった。
今回は会社の駐車場で起こった事件をご紹介しようと思う。

ふと駐車場を見てみたら、1組のカップルがいた。営業車が出入りするので、駐車場はわりとオープンな状態だった。
だがしかし、無関係の会社の駐車場に入りこむものだろうか?

おそらくその時駐車場にいたカップルには余計なことを考える余裕がなかったのだろう。
なぜなら、なかなか派手にケンカをしていたからだ。

物見高い社員が、さっそく駐車場が見える窓のそばに陣取っている。
仕事しろよ。
と思いつつ、わたしも窓のそばに居続けた。

2人とも20代前半に見えるカップルだ。
どうやら、彼氏が彼女以外の女性と会っていたと怒っているよう。
あの人誰、とか、なんで会ってたの、とか彼女が詰問している。
彼氏は言い訳に追われているよう。

カップルの声が(というか、彼女の声が)段々大きくなっていくので、それにつれて窓のギャラリーも増えていく。
みんな好きだねえ。え、わたし? 好きですが、なにか?

そのうち(あたりまえだが)観客がいることに気づいたらしい。
彼氏のほうが「おい、人が見てるから、落ち着けよ」などと言っている。
すいませんねえ、野次馬が多くて。

しかし彼女が落ち着くはずもなく、彼氏のセリフに余計に怒りを煽られたか、平手を繰り出した。
おお、やった!
彼氏の顔で、とてもいい音がした。

ひっぱたかれたのがきっかけになったか、彼氏はそのまま駐車場を出て行った。
出て行った、と思ったら、そのまま迎えに来たらしい車に乗りこんでどこかへ去った。
おいおい、ドライバーは女性だったよ。なにこのメロドラマ。

彼女はといえば、駐車場の隅(もちろん会社の敷地内)で泣いている。
野次馬の社員がちょっとざわついた。泣いている彼女を放っておいていいのかと気になったのだろう。

だがしかし、おじさん社員がざわざわしている間に彼女は泣き止み、その後しっかりメイク直しをして立ち去った。
うん、そのぶんなら大丈夫!

事件その2 自転車の置き逃げをされた

またもや事件が


そのときはたまたま会社の2階の窓から下を見ていた。なぜ自分が窓のそばにいたのかは覚えていない。たしか階段の踊り場だったと思うから、階段を上るか下りるかしていたのだろう。

踊り場からは駐車場が見える。
駐車場に、自転車に乗った制服姿の女の子が入ってきた。

着ている制服から、中学生のように思えた。別に目立つところもなく、普通の中学生に見える。
はて、なぜ中学生が会社の駐車場に入ってくるのか、とわたしは不思議に思った。

不思議に思ったので、なんとなく女の子の姿を目で追ってしまう。
駐車場の奥にはちょっとしたスペースがあり、そこには社員が通勤で使っている自転車を止めている。

女の子は、社員の自転車のそばに自分が乗ってきた自転車を止めた。
もしかして社員のお子さんかな、とわたしは思った。親である社員に用事があって来たとか?

だがしかし、女の子は、自転車を止めると駐車場を足早に出て行った。
それきり戻ってくる気配はない。会社の玄関から入ってくるわけでもない。
どうやら会社とも社員とも無関係の子のようだ。

置き去りにされた自転車をそのままにしておくこともできずに、上司に報告した後で、交番に連絡した。
駅や繁華街に近いのが関係あるのか、ときどき自転車を敷地内に放置されることがあるのだ。

警官はすぐに来てくれた。自転車に貼られた防犯シールから持ち主を探して、持ち主に連絡してくれる。
ここからの展開は少々予想外だった。

持ち主は、会社からさほど遠くないマンションに住んでいる若い夫婦だった。
夫婦は警官からの連絡に驚いたらしい。
いわく「自転車はマンションの駐輪場に置いているはず」と。

警官からの連絡で、会社に自転車が放置されていると聞いた夫婦は驚いて自宅マンションの駐輪場に見に行ったらしいが、そのときは置いていたはずの自転車はなかった。(会社にあるのだからあたりまえだ)

夫婦はその後、会社まで自転車を取りに来た。受け取るときに、連絡をもらう少し前まで自転車は駐輪場にあったのに、と言っていたとか。
おそらくは同じマンションの住人(あるいは住人の関係者)が、夫婦の自転車に勝手に乗り、駅にほど近い会社の駐輪スペースに乗り捨てて行ったと思われた。

教訓:駐輪場に置いているからといって油断してはいけない。鍵はしっかり掛けよう
教訓その2:悪気がないのがタチ悪い

事件その3 少年少女たちの冒険


世間の学校は夏休みというころのことだ。
会社では清掃会社に掃除を依頼していた。清掃スタッフの女性は、熱心に掃除をしてくれる人で、とても助かっていた。

ある日、スタッフの女性が困った顔で話しかけてきた。
駐車場の奥に、外からは見えない奥まったスペースがあるのだが、そこに食べ物があるという。大きいレジ袋サイズのビニール袋に未開封のカップ麺やお菓子が入っていると。
まさか社員が外に食料を置きはしないだろう。

誰が置いて行ったか知らないが、敷地内に放置しておくわけにもいかない。
処分しなければとなり、駐車場の端にあるゴミ袋を置いておくスペースに移した。

いったい誰がそんなところに食べ物を置いたのかと気になったのだが、仕事を始めたら忘れた。
進展があったのはその日のお昼前くらいだ。
清掃スタッフの女性から再び声をかけられた。

駐車場の清掃をしていたら、小学校中学年くらいの子どもに話しかけられたそうだ。
男の子が2人と女の子がひとりだ。3人の小学生はスタッフの女性に、置いていた食べ物がなくなっている、と訴えたという。
場所を移していたので、子どもたちにはわからなかったらしい。

食べ物が入ったビニール袋を持ってきて子どもたちに渡したら、どこかへ行ってしまったと。
3人の様子が少し変だった、とスタッフの女性は気にしていた。

そんな話を聞いたらわたしも気になってしまう。
外に出てあたりを探してみたら、おそらくその子たちだろう3人の子どもたちはすぐに見つかった。

会社の近くに大きめの店があり、店の前にはベンチが置かれている。
子どもたちは、ベンチに座ってカップ麺だのパンだのを食べていた。
ああ、とわたしは思った。

そりゃああれを見たら気になるはずだ。
季節は夏だった。しかしそれにしてもだ。
子どもたちは、妙に汚れていた。

男の子も女の子も、何日か同じ格好をしていたかのように薄汚れている。
清掃スタッフの女性は、食べ物が入ったビニール袋は、前日の夜から置かれていたようだと言っていた。
まさか、子どもたちは駐車場で夜を明かしたのか?
(夜はもちろん駐車場は閉まっているけれど、乗り越えようと思ったらできないこともない)

放っておくわけにはいかないだろう。
上司に事情を説明して、わたしは近くの交番に電話をかけた。
警官はすぐに来てくれた。
店の前に置かれていたゲーム機の前に座っていた子どもたちに声をかけ、そして保護してくれた。

安心したと同時に、申し訳ない気持ちになった。
もしかしたらこれは、子どもたちの冒険だったのかもしれない。

もしかしたら子どもたちにとって、やむにやまれぬ事情があってのことかもしれない。
わたしは子どもたちの精一杯の行動を邪魔した、いけ好かない大人だったのかもしれない。

その出来事からもう何年も経った。
子どもたちの夏があれからどうなってしまったのか、今でも時折思い出しては気になってしまう。

タイトルとURLをコピーしました