
わたしの足は自転車

愛チャリは年季が入っている
車の免許は持っているが、ペーパードライバー歴を着々と伸ばしている。
駅のそばに部屋を借りていたりとか、ドライブは好きではないというかむしろ運転は苦手だとかの理由により車に乗ることがないからだ。
免許証はすでに高価な身分証だ。
では普段の足にはなにを使っているかといえば、これが自転車だ。
自転車も甥っ子が高校生のときに使っていたもののお下がりで、かなりの年季の入った物だ。
わたしはこの自転車をスーパーに行ったり図書館に行ったり実家に帰ったりなどと、けっこう活用している。いまではなくてはならない愛チャリだ。
乗るのはもっぱら週末で、平日は集合住宅の駐輪場に置きっ放しにしているし、ろくに手入れもしないのでさびだの汚れだのが目立つし、先日なんかはハンドルのところに蜘蛛の巣が張っていて驚いたりしたが、愛チャリなのは確かだ。
さて、その日も愛チャリに乗ろうとしていた。
当然だが駐輪場に止めているときは鍵をかけているので、いつものように鍵をはずした。
鍵の調子がおかしい

今度の不具合は鍵だ
少し前から、鍵をかけるときの手応えに妙なものを感じてはいた。
鍵をかけたあとに、鍵が回りきらないような、鍵を回す位置が定まらないような、鍵をかけたあとに鍵を引き抜くのにしづらかったりとか、まあそんな感じだ。
鍵をかけたりはずしたりにちょっと時間がかかるようになった頃、それは起きた。
自転車に乗るために鍵をはずし、しかしそのまま鍵が動き、そして。
鍵がそのまま引き抜かれてしまった。
え、とわたしは思った。鍵をかけたときに鍵を引き抜くのは当たり前だ。
だが、鍵をはずしたときにまで鍵が引き抜かれるものなのか?
そんな馬鹿な。今までそんなことは一度もなかった。
自転車の鍵はたしかにはずれている。そして鍵も引き抜かれている。
わたしは再度自転車に鍵をかけた。かけたときも、微妙に鍵が回る。かちりと気持ち良くおさまらない。かちり、かちゃかちゃという感じ。
鍵をかけたあと、鍵を引き抜く。まあ普通だ。
改めて鍵をはずす。はずすときも同じだ。かちり、かちゃかちゃという感じでおさまりが悪い。そしてかちゃかちゃの後でやはり鍵が引き抜けてしまう。
しかたないので、引き抜けた鍵を差し込む。
鍵を差し込む位置によって引き抜けたり引き抜けなかったりする。
どうしたらいいんだろう、これ。
このまま鍵を差して自転車を漕いでも大丈夫だろうか。
なにかのはずみで鍵が引き抜けて落ちたりとかしないだろうか。
鍵にはストラップの鈴をつけているけど、落ちたら気づくだろうか。
目的地に着いて自転車を見たら鍵が抜け落ちていたとかやだなあ。
その日はスーパーに行く用事があったが、スーパーに着くまで、信号で止まるたびに鍵を確認した。
どうする、いまのうちに合い鍵を作っておくべきか。それともこれが鍵の寿命だと諦めて鍵自体を交換するべきか。
いい方法があったよ
スーパーで買い物中もあれこれ考えた。おかげで買おうと思っていたアイスを買いそびれてしまった。わたしの貴重な癒やしなのに。
さて、スーパーでの買い物を終えて、ふたたび自転車に乗って帰ろうとしたとき。
天啓のようにひらめいた。
鍵を差して自転車を運転するから、落とさないかと心配するのだ。どうせはずれるのなら、最初からはずしておけばいい。
わたしは鍵をはずし、かちゃかちゃと回したあとに鍵を引き抜いて(やはりはずれる)バッグの中にしまいこんだ。
これで落とす心配はしなくていい。
わたしは安心して自転車に乗った。
自転車に乗るときの手間がひとつ増えてしまったが、まあしかたなかろう。
これも年季の入った自転車に乗っているがゆえだ。
そんな自転車に乗っているわたしのいまの心配ごとは、鍵を差していない自転車に乗っていることで、盗難自転車に乗っていると勘違いされないかどうかだ。
みなさん、わたしは無実です。