香りづけはほどほどに

青ざめる会社員

訪問客の香水が

い、いらっしゃいませ

わたしは長年会社勤めをしていた。
担当していた仕事がらで、来客の対応をすることも多かった。
今回の話は印象に残ったひとりの女性客の話。

そのひとは30代半ばくらいと見える女性だった。スーツ姿だったが、ヘアスタイルもあってか、そんなにかっちりした雰囲気でもなく、柔らかい印象だった。

もうひとり男性が一緒で、こちらは20代半ばくらいか。
女性から一歩引いた感じがあり、先輩後輩の関係か、あるいは上司部下かと思われた。

わたしは2人の来客を応接室に案内した。そのときから少し気になっていた。
女性は香水をつけていたのだが、その香りがえらく強めに思えたのだ。

どのくらい香水を振りかけてきたのだろう、とちょっと思った。
わたしはあまり強い香りが好きではなく、自分でもほとんど香水のたぐいは使わないので、余計に気になるのだろうか、とも思った。

来客2人を応接室に案内する。
会社に応接室はいくつかあるのだが、予約が入っていたり先客で埋まっていたりで、そのときに使った応接室は、社内でも狭いほうのものだった。

広さは4畳くらいだろうか。応接セットとキャビネットを入れるともういっぱいになるくらいのスペースだ。
そのスペースに、来客が2人、社内の担当者が2人入って、商談が始まった。

充満する香水の香り

すでに香りの暴力

わたしはお茶を淹れて再度応接室に入った。
入った瞬間、う、となった。

けして広くない部屋中に強い香りが充満している。
顔には出さないものの、うわー、と思った。

部屋の中の人間はこの香りをなんとも思わないのだろうか。
ちらりと担当者2人を見、今度は来客2人を見る。さすがに皆会社員というところか、
不快な表情をしている人はいない。
至ってマジメに仕事の話をしている。

わたしはお茶を出し終わると、商談の邪魔にならないよう、そっと応接室を後にした。
部屋の扉を閉めた瞬間、深呼吸をする。

きつかった。ものすごく香りがきつかったよ。
密室に充満する香水の香りって、ほとんど暴力じゃないかな。

それにしても、当の女性はあんなに強い香りを身につけて、自分で気にならないのだろうか。
香りをつけるのが習慣になると、どんどん鼻が香りに慣れていって(鼻がバカになるともいう)香水がきつくなっていくというのは本当かもしれない。

当人はともかく、連れの男性は気にならないのだろうか。
一緒に行動しているのだし、自身は香りをつけていないだろうし、女性の香りが鼻につきそうなものだが。
気になっても口にすることができないのだろうか。それはそれでお気の毒なことだ。

香りを追い出せ

商談は小一時間ほどだったろうか。
来客が帰ったので、応接室を片づけにいく。

部屋に入ったら、まあわかってはいたのだが、残り香というには強烈な香りが充満している。
これはいかん、換気扇を回しても短時間ではこの香りは消えないだろう。
次の来客が使うまでにこの香りをどうにかしないと。

幸いその応接室はドアが2箇所にあるタイプだったので、わたしは両方のドアを開けて、空気の流れを作ることにした。この香りをなんとか追い出すのだ。

応接室はフロアの一角にあったのだが、ドアを開けて香りを逃がし始めた途端、近くに座っていた同僚女性が声を上げた。
「くさっ」
じろりとわたしを見てくる。
「沖端、臭いんだけど」

素敵な香りの香水だろうに、すでに臭いもの扱いだ。
気やすい同僚女性だったので、わたしもちょっと肩をすくめただけだ。

「しょうがないやん。この香りをなんとかしないと、次の来客に使えないし」
同僚が情けなさそうに眉を下げる。
「そりゃそうだ。それにしてもすごい匂い」
「商談中はもっとすごかったよ。この香りに耐えた担当者2人を褒めてやって」
たまらん、と首を振る同僚に、わたしは苦笑する。

結論。素敵な香りの香水は、ほんのり香るくらいがいいと思います。

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