
ゴミを荒らされる
あなたはゴミをカラスに荒らされたことはありますか。
わたしはあります。正確にいうなら、わたしが出したゴミではなく、同じ集合住宅に住む人が出したゴミを荒らされたことがあります。
集合住宅には敷地内にゴミ置き場があるのですが、残念ながらそれはゴミステーションのようなしっかりしたものではありません。少しばかり頑丈なネットが常備されているだけの、ゴミ袋をネットで覆うようにするものです。
まあそれでも住人がそれぞれきちんと出したゴミをネットで覆っていればいいのだと思いますが。
大半の人はそうしています。ネットの中に自分の出したゴミ袋を納めます。
しかし中にはいるのですよ、ゴミ袋をネットのそばにぽんと放り出していく人が。
なぜ彼らは、ネットを持ち上げてゴミ袋を中に押しこむという動作ができないのでしょうか。
よほど電車の時間が迫ってでもいるのでしょうか。
あと3分早く部屋を出ることをお勧めします。
奴らは狙っている

ゴミ置き場が大変なことに
そしてカラスは頭がいいというのは本当だと思います。
彼らは電線の上から、民家の屋根の上から、ゴミ袋を狙っているのです。
彼らはきっとこの地域の生ゴミを出す日を覚えているのでしょう。ゴミ収集日には、近くの電線に止まっているカラスの数がやたら多いように見えます。
そして放り出されているゴミ袋を見つけるや、そのクチバシで器用にゴミ袋に穴を空け、中から食料になりそうなものを引っ張り出します。
人間の出す生ゴミはあまりカラスの体には良くないと思うのですが、背に腹はかえられません、飢えるよりはいいのでしょうね。
ゴミを出しに行って、あたりに散乱しているゴミと、ネットからはみ出ているゴミ袋を見つけるたびに、ああもう、という気分になります。
わたしも大人ですので、自分のゴミ袋を出すついでに、放り出されているゴミ袋を一緒にネットの中に押しこむくらいのことはします。
そんなときはなにやら頭上から、余計なことしやがって的な鋭い視線を感じるような気がするのですが、気のせいですよね。
さてある日のゴミ出し日の朝のことでした。
わたしはゴミ袋を片手に、電車の時間を気にしながら集合住宅の外に出ました。
ゴミ置き場に行き、うわ、と思いました。
その日はひどくゴミが散らばっていたんです。ゴミ置き場の半径3、4メートルくらい、道路の上にまでゴミが散乱しています。
ネットの脇には放り出されたゴミ袋が数個転がっており、いずれにも穴が空いています。
これはひどい、とさすがに呆気にとられてしまいました。
わたしのせいではない、が、困るのはわかる

困るんだよ、ほんと
そこに、小型犬を抱いた年配の婦人が通りかかりました。
どうやら近所の住人が犬の散歩をしていたようです。(犬を抱いて歩くのを犬の散歩というのかはともかくとして)
年配の婦人と目が合いました。
「こういう状態になっていると困るのよねえ。カラスがどんどん来るし。ここはゴミ出しのときによくこうなってるのよね」
わかります、お気持ちはようくわかります。見るだけで腹が立つ光景ですよね。
しかし、同じ集合住宅の住人がしたこととはいえ、わたしにとっては名前も顔も知らない他人の仕業です。
わたしに苦情を言われてもぶっちゃけ困ります。
わたしはこんなときの必殺技、『一緒に困る』をすることにしました。
「本当ですよねえ。きちんとネットの中に入れてもらわないと。カラスが漁りますしねえ」
ふるふると頭を振ったり、ため息をついたりと、ややオーバーアクション気味に言うのもいいでしょう。
婦人は、したり、というように、うんうんとうなずいています。
誰でもいいから住人に怒りをぶつけたい、という人ではなくてよかったです。
わたしはちらりと腕時計を確認しました。
「すみません、ゴミは気になるのですが、電車の時間が……」
「ああ、いいわよいいわよ、ここは。いってらっしゃい」
「すみません、いってきます」
わたしはネットの中に自分のゴミ袋を入れ、笑顔で婦人に会釈をしてその場を去りました。
家賃も自治会費もきちんと払います。贅沢は言いませんが、カラスに漁られないくらいには頑丈なゴミステーションを設置してもらえないもんでしょうか。
管理会社がゴミステーションを設置するのを期待するほうがいいのか、ゴミステーションと宅配ボックスを装備している集合住宅を探すのが早いのか、どうなんでしょうか。