
専門学校生の頃の話
高校を出た後、デザイン系の専門学校へ行った。わたし自身はかなり地方に住んでいるが、専門学校は県内でも都会にあったので、通学するのが大変だった。
さて、専門学校に通っていた頃の話だ。
わたしが通っていた科は人数が少なかったが、授業によっては違う科の生徒と一緒に受けることがあった。
その合同授業で一緒だった女の子と親しくなった。名前はMちゃんという。
Mちゃんはおっとりした子で、いつも穏やかな笑みを浮かべていて、そして言葉がとてもきれいだった。
20才前後の女子は勢いが余って言葉も荒くなりがちだったりするが、Mちゃんの言葉はいつもきれいで、崩れたところを見たことはなかった。
Mちゃんの家に遊びに行った

え、ここが自宅?
ある日、学校帰りにMちゃんの家に遊びに行くことになった。Mちゃんの家におじゃまするのは初めてで、わたしも同行した別の友人も楽しみにしていた。
Mちゃんの家の最寄り駅に下りて驚いた。最寄り駅、ここ?
西○駅沿線に住む人なら誰もが知るような高級住宅地がある場所だ。
最寄り駅からMちゃんの家までは徒歩距離だった。
この駅から徒歩で行ける場所に家があるの、と、わたしはおののいた。
やがてMちゃんが、ここ、と家を指し示した。
この場所なのに、広い庭つきの家だった。
ひえ、と思いながらMちゃんの大きな家を見上げた。
さらにMちゃんは、自宅の近くには親戚たちの家もあると言った。
え、ここいらへん一帯に親族の家が並んでいるんですか?
Mちゃんはお嬢様だったと知った。
あのおっとりさも言葉のきれいさも、育ちの良さからくるものだったのかと納得した。
ちなみに想像通りだろうが、お父さんはオーナー社長だ。
家政婦を(生で初めて)見た

お嬢さんって言いましたか
Mちゃんの家には何度か遊びに行ったが、あるとき家に女性がいて、わたしはてっきりMちゃんのお母さんだと思って慌てて挨拶をした。
お母さんにしては若いなとは思ったのだが、台所で洗い物をしていたその女性は、Mちゃんに「お嬢さん、お帰りなさい」と言った。
お、お嬢さんって言いましたか?
その女性はMちゃんのお母さんではなく、通いで来ているという家政婦さんだった。
今でこそ家事代行とかメリーメイドとかいって、自宅に家事をするために人が来るのは珍しいことではなくなったが、当時はン十年前だ。
わたしにとっての家政婦さんというのは、テレビ画面の向こう側にいる、「家政婦紹介所から来ました。あらあら、とんでもないものを見てしまいました」と壁から半分顔を出している市原悦子さんなのだ。
テレビの中にしかいないのだと思っていた『家政婦さん』がリアルでいたのだとそのときに知った。
わたしはまるで街中で芸能人にでも会ったような気分で、Mちゃんの家に通う家政婦さんを見た。(ちょっとオーバーか)
わたしたちが出かけようとすると、その女性はMちゃんに「お嬢さん、お出かけなら帽子を被ってください。日焼けしますよ」と帽子を差し出していた。
うーむ、お嬢さんと家政婦さんの会話だ。
沖端版『家政婦を見た』
うむ、ドラマになるのは難しいな。