
昔々の会社の話

そんな頃もあったんだよ
これはわたしが会社に入社した頃の話だ。
分煙とか嫌煙とかいう考えがまったくなかった時代なので(いつの時代かと考えてはいけない。そういう頃もあったのだ)喫煙する社員は、あたりまえに自分の机で煙草を吸っていたし、机の上には個人で使う灰皿が置かれていた。
ちなみにセクハラという概念もなかった時代のことで(いつの時代かと考えてはいけない。そういう頃も以下略)おはようの挨拶と同時にお尻を触られるなんてこともあったし、髪や体を触られたり、胸元に手を伸ばされたり手を握られたり、おじさん社員に体を押しつけられたりなんかもあった(令和現在なら大問題になるだろう。まともな価値観が広がってよかった)
もちろんそんなことをするのは一部のおじさん社員だけで、大半の人は紳士的だったわけだが、会社ってこんなにサバイバルなのかと、うら若き乙女だった頃のわたしは愕然としたものだ。
まあそんなセクハラに関しては機会があれば別に書くとして。
今回は会社での喫煙について。
社内は煙臭かった

煙草の煙がもうもうと……
すでに書いたが、喫煙する社員はあたりまえに自分の席で煙草を吸っていた。
机の上に置かれた、吸い殻の溜まった灰皿を夕方に片付けて洗って、元の机に戻すのは女性社員の仕事だった。
当然応接室にも来客用に大きな灰皿が置かれていて、こちらは使われるたびに片付けていた。
応接室で3、4人も煙草を吸っていたりすると、部屋の天井が白く煙っていたりもして、お茶やコーヒーを運んだときなどに、おお、キントウンが浮いているようだ、とか思っていた。
そんな1日を過ごしていると、仕事が終わる頃には自分の髪が煙草臭くなっている。
毎日毎日煙草臭くなる髪にうんざりしていたのは確かだ。
そういえばこんなことがあった。
来客があり、応接室にお茶を運んだときだ。来客は取引先の男性社員だった。
取引先の社員は、お茶を出したわたしに言った。煙草買ってきて、と。
え、とわたしは思った。
その当時でも、取引先の会社の女性社員に煙草を買ってくるよう頼むなんて、まあまあ失礼なことだった。
顔には出さないものの、ええ、となったが、親しい取引先だったのか、それともなんらかの力関係でもあったのか、応接室にいた上司にも「沖端くん、煙草買ってきてあげて」と言われてしまい、わたしは笑顔を取り繕って、銘柄はなにがよろしいですか、と聞いた。
内心少なからずアレでしたけれどねえ。
そんなことがありつつも、世の中は次第に嫌煙志向となり、社内でも分煙が進められ、禁煙が奨励され、応接室からは灰皿が撤去された。もちろん個人の机に灰皿はとっくにない。
うーん、クリーンな空気っていいねえ。
煙草や喫煙に関してはそんな流れになっていたが、それでも社内には一定数の喫煙者がいた。喫煙場所が限られてずいぶん不便そうではあったけれど。
時代は変わったんだよ
あれはホテルで社内のなにかのパーティーがあったときだった。
パーティー会場で準備のため、わたしを含む担当の社員たちがわたわたと立ち働いていたとき。
年配の社員にわたしは呼び止められた。
なんでしょう、見てわかるでしょうが、準備で忙しいんですが。
「ちょっと煙草買ってきて」
おまえもか! と思いつつ、わたしは笑顔で答えた。
「すみません、タスポを持ってないので買えません」
年配の社員は、あ、という顔になり、煙草を買いに行かせるのを諦めて、他の喫煙社員から煙草を貰っていた。
自動販売機で煙草を買うときに必要になる、成人識別のためのICカード、タスポが導入されてまもなくの頃のことだ。
いい時代になったと思ったものだ。
まあでも煙草代は60パーセント以上が税金だっていいますからねえ。
高額納税者だと感心してはいますよ、はい。