
エスカレーターから転がり落ちた話
あなたはエスカレーターから転がり落ちたことがありますか。
わたしはあります。
あれはある朝、通勤電車に乗ったときのことでした。
電車に乗っている時間はせいぜい20分というところなんですが、血が薄いのか足りないのか、わたしはときどき貧血を起こすんです。
健康診断でも血液検査でひっかかります。
おかげで、というのも妙な話なんですが、貧血を起こす兆候には敏感なんですね。
顔から(頭から?)血が下がっていく感覚を確実に捉えて、倒れる前に座りこむことができます。別に自慢ではないんですが。
しかし、その日はついに通勤電車でシートに座ったまま貧血を起こすという貴重な体験をしてしまいました。
ちょうど仕事が詰まっている時期で、あれこれ考えごとをしていたのが響いたのかもしれません。
貧血を起こした

貧血を起こしたときはすぐに座り込もう
かろうじて会社の最寄り駅で降りることはできました。
とりあえず改札まで行こう、無理そうなら構内にあるベンチに座ろうと、駅のホームから改札へ向かう下りのエスカレーターに乗ったんです。
体がふらついている自覚はあったから、手すりもしっかり掴んでいました。
考えてみれば馬鹿なことをしました。もうちょっと体調が落ち着くまでホームのベンチにでも座っていればよかったんですね。
貧血を起こしているときに手すりを掴んでいてもなんの役にも立たないと学びました。
わたしはエスカレーターを下りる途中で意識を失った、ようです。
エスカレーターのなかばくらいまで下りていたことは覚えているんですが、気がついたときは最下段で倒れてゴンゴン頭を打っていました。
なんせエスカレーターは動いていますからね、その動きに合わせてわたしの頭もゴンゴン揺れています。
いったいいつこんな状態になったんでしょうか?
いやしかし、世間には親切なかたが多いものです。
わたしはありがたくも恥ずかしくも周囲の人たちに助けられ、支えられ、駅員さんを呼んでもらっていました。
そして、駅員さん達はみなさんとても親切です。
わたしは事務所の中にある休憩室に運んでもらい、布団を敷いてもらい、横になるよう促してもらい、水を運んでもらいました。
もうホントすいません、朝っぱらからお世話をかけて。
このご恩はどうやってお返ししたらいいのでしょうか。
定期券代倍額払ってもいいくらいです
その一件でものすごく反省したわたしはかかりつけの内科で鉄剤を処方してもらうようになりました。
おかげでそれ以来電車内で貧血を起こすことはほとんどなくなりました。
今は鉄分を摂れるサプリを愛用しています。
電車通勤の罠

そこに罠はあるのかい
だがしかし、電車通勤には別の罠も口を開けているのですよ。
20分ていどの通勤時間とはいえ危険は多いですね。
その兆候は、わたしの場合はとてもわかりやすいです。
わたしは電車に乗っている時間はほぼ読書時間にあてているのですが、本を読むのが辛い、と感じたときはすでにその危険はわたしに忍び寄っています。
目がすべって、本の中身を追うことができなくなっていくんです。
きた、とわたしは思います。
読んでいた本を閉じ、そっとでかいバッグにしまいます。
そのままゆっくりと深呼吸を繰り返します。うまくいけば回復します。
だけれどたいていの場合は予感のままに悪くなっていきますね。
腹痛との闘い
ストレスが胃腸にきやすいためなのかどうか、わたしはときどき突発的にお腹が痛くなるのです。
自宅にいるときならいいんです。そのまま個室で唸っていればいいんですから。
仕事中もまあいいとしましょう。小走りなら数十秒で目的の場所にいけます。
問題なのが電車内です。あいにくわたしが通勤で使っている私鉄電車にトイレは設置されていません。
駅に着くまでひたすら我慢するしかないのです。
通常時ならあっという間に着いて、ろくに本を読み進めることもできなかったと感じる時間なのに(なにしろ20分です)体調が悪くなるとやたらと時間を長く感じるのはなぜなんでしょうねえ。
ちりちりとしたお腹の痛みがしだいに強くなっていきます。
首の後ろに嫌な汗をかいているのがわかります。
ぞわりとするほど痛みが強くなり、つかの間治まる。強弱をつけて痛みが襲ってきます。
い、痛い。痛いんですけど。まじヤバいんですけど、これ。
冷や汗をかきながらわたしは考えます。
途中の駅で降りてトイレに駆けこむべきだろうか、と。
いやしかし、それでは確実に会社に遅刻してしまいます。
悲しきかな、わたしの住んでいるところは電車の本数がさほど多くないのです。
一度降りたら次の電車まで30分は待たないといけないのですよ。
時間のロスは痛い。しかしそれ以上にお腹が痛い。
会社の最寄り駅までもつかどうか賭けてみるべきだろうか。どうする、沖端。
あと10分頑張れば会社の最寄り駅に到着する。
しかしこの腹の痛みではその10分が果てしなく長い。もつかどうか怪しい。
もしこの痛みに負けてしまったらどうなってしまうのでしょう。
電車内でとんでもないことになってしまいます。
それはすなわちわたしの女としての人生の終わりではないのでしょうか。
馬鹿なことを考えていてもお腹の痛みが治まることはありません。
痛い、痛いし。無理、もう無理。ほんとに無理。ガチで無理。
こうしてわたしは今日もなにかとの闘いに負けてむなしく電車を途中下車するのでした。