昭和の高額教材の訪問販売の話

昭和のトンデモ訪問販売

昔々の訪問販売の話

令和の現在では訪問販売を経験することはないが、昭和の頃はかなり強引な訪問販売があった。我が家にもその手の訪問販売が来たことがある。
今回はその話。
わたしが小学校の高学年の時の話だ。
いきさつは忘れてしまったが、民間業者が主催する学力テストのようなものを受けた。
学力テストといっても家でするものだ。国語やら算数やらの問題を解いていく。
テストの最後にアンケートがあり、問題を解くのにどのくらいの時間がかかったか、現在塾には通っているかなどを書く欄があった。
なんせ小学生だったので、バカ正直に書いた。かかった時間はこのくらい、塾には通っていないことなど。

小学校の門の前に業者が設置したポストのようなものが置かれていて、答えを記入したテストはそこに入れた記憶がある。(そんなものを学校の前に設置するのが許されていたのだから、当時の緩さがわかろうというものだ)
そこにテストを入れると、後日、点数や勉強に関するアドバイスなどを書いたものが自宅に郵送されるという話だった。

さてポストにテストを入れた数日後、2人の男性が我が家にやって来た。
2人の男性は学力テストを主催した会社の人間だと名乗ったようだ。
赤がいっぱい入った、わたしが書いたテスト用紙を母に渡す。
郵便で送るんじゃなかったんかい、と子ども心に突っこんだ。
学力テストを主催した会社の目的は、高額な教材を販売することだった。
おそらくは、すでに塾などに通っていて教材購入の可能性の低い家には郵送で、そうではない家には訪問販売するという流れだったのではないだろうか。(あるいは郵送するというのは建前で、すべての家に訪問販売したのかもしれない)
2人の男性は当時のわたしからは随分大人に見えていたが、今にして思えば20代半ばほどと見える若造だ。

販売員(男性2人)の熱弁に困惑する母

成績が悪い? 大きなお世話ですー

母を相手に、2人の男性は熱弁を奮った。
いわく、わたしのテストの成績はあまり良くなかったこと。(大きなお世話だ)
自分の会社の教材を使えば、学力がどんどん伸びること。この機会にぜひこの教材を使って欲しいということ。
それ以外にもあれこれ言っていたと思う。よく覚えていないけど。
2人の男性の押しの強さに、母が困った顔をしていたことは覚えている。
2人が勧める教材はかなり高額だったと思う。子どものわたしは、あまりの高さに驚いていた。

困った母は「ちょっとお父さんに聞いてきます」と言い、その場を離れた。
向かった先は自宅に併設した小屋だ。ちなみにその頃は小屋のほうが自宅よりもうんと広かった。
2人の男性の気配が少し変わったのがわかった。
平日の午後まだ早い、小学校が終わったばかりの時間だ。
え、男親が家にいるの、と2人が戸惑ったのが伝わってくる。
その頃父は自分の漁船で海に出ることを仕事にしていた、海の男だった。
海から戻ってきて、小屋で作業をしていたのだ。
わたしが小学生ということは、当時父は40代か。後年は好々爺のようになった父だが、その頃はまだまだ血の気が多かった。
母も一緒に小屋で作業をしていたのだが、そのときは作業を中断して2人の相手をしていた。

父の一喝であっさり去っていった

なかなか母が作業に戻ってこないので、父は苛立っていたよう。
父の怒声がわたしたちのところまで聞こえてきた。
「そんかこつせんでよか! いつまで喋りよっとか、さっさと帰らせんか!」
招かれざるとはいえ、一応来客がいるにしては遠慮のない大声だ。父の声を聞き慣れているわたしでもちょっとびっくりした。
いわんや、2人の男性はかなり驚いたよう。びくりとして顔を見合わせるのがわかった。
さっきまでの押せ押せモードはどこへいったのか、2人の顔には戸惑いと怯えが浮かんでいた。それを読み取って、情けないの、と思ったわたしも、あまり性格はよろしくないだろう。

すぐに母が戻ってきて、すまなそうに言う。
「すいませんねえ、お父さんがしなくていいって言ってるもので」
2人の男性は慌ただしく帰り支度をした。
いえ、いいんですよ、とか、今回は残念ですが、またなにか機会があったら、とかなんとかいろいろ言っていたような気がする。

2人が泡を食って帰る背中を見送って、母もまた作業をするために小屋へ戻った。
わたしは2人の男性を見送りながら、大人って汚いな、と思っていた。
2人が母に渡した、わたしが書いたテスト用紙は、びりびりに破いてゴミ箱に捨てた。

後年、わたしは会社で迷惑営業を潰すのにやたらと情熱を傾けるようになるのだが。
その原点はあの出来事だったのかもしれない。

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