
それは黒歴史のひとつ

涙なしには語れない
あなたは間違えて男性用トイレに入ったことがありますか?
わたしはあります。
あれは、ひとりで駅ビルの書店に行った日のことでした。
書店内をぐるぐると見て回っていたのですが、本を見ているうちにお腹が痛くなってきたんです。
本を見ているとトイレに行きたくなるというのは書店あるあるのようですが、なぜなんでしょうねえ。
あ痛、と思っているうちに、瞬く間に猛烈に痛くなってきました。
わたしは前屈みになりつつの小走りになりつつの腹圧を与えないように用心しつつのという、とても面妖な体勢でフロアの端にある洗面所に向かいました。
苦痛に耐えつつ洗面所へ
洗面所にたどり着く頃にはお腹の痛みはすでにピークです。
わたしは慌てつつもそろそろという、これまた表現が難しいスピードで洗面所に入ります。
幸か不幸か洗面所の中には誰もいませんでした。
だからこそ自分の間違いに気づかなかったんですけどね。
一番手近の個室に飛びこみ、鍵を掛けるのももどかしく腰を下ろしました。
扉の外からは誰かが出入りしているらしい靴音がいくつか聞こえました。
今から思えばひとつひとつの靴音がやけに重かったのですが、まだ腹痛と戦っていたわたしはそのときは気づきませんでした。
わたしが個室で戦っている間に、数人出入りしたと思うのですが、これまた今から思えば皆さん短時間で出入りしていました。
女性ならこんなに短い時間で洗面所から出ないでしょう。
やはり苦しんでいたわたしはそのときは気づきませんでした。
戦いが終わり、わたしはようやく息をつきながら個室から出ました。
個室から出たときに洗面所に誰もいなかったのはこれまた幸いでした。
なにも気づかないわたしは普段通りに手を洗い、ハンカチを取り出して手を拭きます。
ようやく自分の過ちに気づく

もしやここは……
さて、と外に出ようとしたときでした。
洗面所の入り口からひとりの男性が入ってこようとしていました。
え、男性? とようやくわたしは思いました。
男性は、40代ほどと見える、会社員風の人でした。
洗面所の出入り口で、わたしと会社員風の男性はぶつかりました。
え、という顔をしたのは同時でした。
男性はわたしの顔に視線を据えたまま、ゆるやかなバックステップで2、3歩後ずさりました。驚いたときって、本当に人は後ずさるんですね。
まさか、とわたしは思いました。
わたしはすっきりしたお腹をそれでもなんとなく撫でる仕草をしつつ、そそくさと洗面所を後にしました。
男性はわたしを見送った後で洗面所へ入ったようです。
洗面所を出るときに確認したら、やはりそこは男性用でした。
ちなみに女性用は隣でした。ほんの1、2メートルの違いで、既知の扉と未知の扉に別れていました。
教訓:切羽詰まっているときでも安全確認は必要