
今ならアウトな話

なにをくれたかと思ったら
これはわたしが会社に入って数年くらいという頃の話。
そう、あの頃わたしは若かった、というやつだ。
所属していた部署と担当していた仕事の関係で、社外の人の対応をすることが多かった。
日々愛想の良さというスキルを磨いていた頃でもある。
その日、取引先からひとりの男性が会社を訪問した。
年は50代半ばくらいだろうか。だいぶかっぷくの良い人だった。
わたしは来社した男性を出迎えた。笑顔で「いらっしゃいませ」というわたしに、男性は鷹揚に挨拶を返した。
案内しようとしたわたしに、男性は、ああそうだ、という感じでカバーのかかった1冊の文庫本を手渡した。
手土産のお菓子をいただくことは少なくないが、本を渡されるのは珍しい。
渡された文庫本を反射的に受け取ってしまったが、わたしの顔にはハテナマークが浮かんでいたはずだ。
「新幹線の中で読み終えたから、それ、あげるよ」
男性はそう言った。ああ、そういうことでしたか。
本を読むのは好きなので、本をもらったことを喜んだ。
ありがとうございます、とお礼を言って、わたしはその本を受け取った。
担当社員に来客を取り次ぎ、お茶を出すなどの仕事を終えたあと、わたしは男性からもらった本を自分の席でさっそく開いた。
本は、この開く瞬間のどきどきがたまらないよね。今日出会ったのはいったいどんな本なんだろう。
そうしてわくわくしながら開いた本は。その本は。
大人の小説だった。いわゆる官○小説というやつだ。それまで男性向けのそういった本を読んだ経験はなかったが、パラ見した限りでは、けっこう露骨な描写が多かったように思う。
なぜわたしにこの本を渡したのか、ちょっと膝つめで聞いてもいいかな?
せっかく出会った本だったけれど、残念ながらわたしとはご縁がなかったようなので、サヨナラした。
見ていたのは一冊の雑誌
そしてこれはまたとある日のこと。わたしはそこそこベテランだった頃だ。
フロアの一角、ひとつの机を囲むようにして、5、6人の男性社員が集まっていた。20代から50代まで、年齢層は幅広い小集団だ。
ちょっとばかり好奇心が強いので、わたしはその小集団に近寄った。
「どうしたんですか?」
近寄ってみると、小集団は、机の上に広げた1冊の雑誌を眺めているようだった。
わたしも眺めてみた。
布面積の小さい服(服?)を着ている、きれいなお姉さんの全身写真がそこには写っていた。
いわゆるグラビア写真というやつだ。
勤務時間中に会社内でなにやってるんですか、あなたがたは?
おいおい、と思ったが、眺めているうちに、その写真が妙なことに気づいた。
お姉さんの写真がなんだかぶれている。輪郭がはっきりしないような感じなのだ。
体の輪郭が2重に写っていることに気がついた。
今はなつかし、飛び出すメガネ

楽しそうだね、きみら
そして、ひとりの男性社員が、紙で作られているメガネを手にしていることにも気がついた。
変わったメガネだった。レンズが入るところに、片方は赤の、もう片方は青のカラーフィルムのようなものが貼られている。
勘の良いかたはお気づきでしょうが、それは『飛び出すメガネ』だった。
『3Dメガネ』ともいう。写真が立体的に飛び出して見えるというあれだ。
たしか昔は『3D映画』とかもあった。メガネをかけて映画を見ていた記憶がある。
ということは、これは布面積の小さい服(服?)を着ているきれいなお姉さんの写真を飛び出させて見るためのメガネであると。
そしてそれを見るために、この小集団はできていると。
それにしても小集団は1冊の雑誌を囲んで楽しそうな顔をしている。
ここは会社だと思っていたが、もしかして中学校だったんだろうか?
え、それで沖端はどうしたか、ですか?
えーと、少しばかり好奇心が強いものでして。
メガネを借りてわたしも雑誌の写真を見てみました、ええ、はい。
お姉さんがちょっと飛び出した、ような気がしなくもなかったです。