
友人ネギとの話
ネギとは元々は単なる同僚だった。長いことただの同僚だったのだが、酒の勢いで暴露した趣味とか好みとか好きな物とかがお互い似ていて、プライベートでも親しく付き合うようになった。今では気の置けない友人のひとりだ。
つきあいも長くなるので、だんだんとお互いの好みを把握してくる。
ネギと映画を見に行くとしよう。(ネギはかなりの映画好きだ)そうすると、映画を見終わった後で近くの商業ビルでランチと買い物でも、ということになる。
商業ビルの中をふらふらしていると、アパレルショップに季節先取りの洋服が並んでいる。
あるショップの前で「あれ、沖端が好きそうなやつだよ」とネギが言う。
互いの好みがわかるがゆえに始まる攻防戦

ほら、好きそうなものがあるよ(はあと)
見ると、店の中にハンガーに吊されているロングカーディガンがあるのが見える。
ちょっと遠目で見てもツボにはまる服なのがわかる。
そのままネギと2人でふらふらと店内に入る。
ロングカーディガンに引き寄せられ、プライスカードを見る。
うっ、と考える。なかなかいいお値段だね、どうしよう。しかし、この前も服買ったし。
悩んでいると、ネギがにやにやしている。
「どうする?」
くく、と悩みつつ、結局ロングカーディガンを手にレジに向かってしまう。
負けた、と思う。いや勝負をしているわけではない。
また別の店を覗く。お、と思う。
「あのハンガーにかかってるシャツ、ネギが好きそう」
言うと、え、とネギがシャツを見る。
こいつはけっこう服の好みがうるさい。というか、少し変わっている。
そしてわたしはそのツボを知っている。
案の定、う、という顔をネギはしている。
わたしはにやにやする。「どうする?」
ネギはプライスカードを見ている。おや、シャツにしては高いね、それ。
「えーと、とりあえず保留で」
ネギは名残惜しそうにシャツをラックに戻す。
「そう? じゃあ、ご飯にしようか」
わたしはそれ以上はなにも言わない。
ネギとランチをすると、お互いの好みでパスタになることが多い。
食べ終わり、そろそろ出ようか、となる。
「どこ行こうか? 雑貨見に行く?」
店を出た後でわたしが言うと、ネギがどこか思い詰めた顔で答える。
「雑貨見に行く前に、さっきの店で」
「シャツを買うんだね。おっけー、行こうか」
くく、という顔をネギはしている。
勝った、と思う。いやだから勝負をしているわけではない。
攻防戦は終わらない
しかしなぜいつも、相手の好きそうな物を見つけては購入をそそのかすという展開になってしまうのか。
お互いの好みを把握しているがゆえの謎展開だ。
さて、雑貨を見ていると、今度はネギが言う。
「沖端の好きそうなものがある」
見ると、猫がプリントされたハンカチが並んでいる。
こいつは自分も猫好きのくせに、わたしに勧めるか。
しかし確かに好みだ。わたしはデザイン違いで2枚3枚とハンカチを選ぶ。
わたしは知っている。ネギは大層な猫好きだが、大層なウサギ好きでもある。
どれくらいウサギ好きかというと、そのマークがあるからという理由で、愛車が『ラ○ン』なくらいだ。
いままでもかなりのウサギグッズを見つけてはネギに勧めてきた。
が、ウサギ好きなだけあって、好みがうるさい。
ポーズが好きじゃない、表情がちょっと、これは色がねえ、という理由で、勧めてもハネられる。勝率はせいぜい1割というところ。
そのとき雑貨店で、ウサギの置物を見つけた。
たたずまいといい表情といい、かなりいい。ちょっと大きい置物だし、お値段もそれなりだけど、これなら。
わたしは猫ハンカチを手にしたまま、意気揚々とネギに告げた。
「ほら、ネギの好きそうな置物がある」
ネギはわたしの渾身のお勧めであるウサギの置物を見て、ふっと笑った。
「それ、もう持ってる」

くう、次は見ていろよ
くう、次は負けないからな、覚えてろ!
だから、勝負ではない。