
1匹目の猫はファミリー
運動不足解消と脂肪燃焼のために、できるだけウォーキングをするようにしている。
ウォーキングコースの途中に、庭が広い民家がある。道路に面しているところに塀がないので庭がよく見える。
庭が広いだけなら田舎のことでさほど珍しくもないが、このお宅の庭にはいつも数匹の猫がいる。
飼い猫ではなく、野良猫、というには多少は人に慣れているようだから、外猫というべきか?(違いがよくわからないが)
塀がないとはいえ人さまの家なので敷地内にうっかり入るわけにもいかず、いつも遠目で猫たちを見ていた。
たまに猫が道路近くまで出ているときはほんの少し敷地内(とおぼしきところ)に失礼して猫のそばに寄ってみるのだが、やはりあまり人が近寄ると逃げてしまう。
そんなある日、ウォーキングをしていて猫がいる民家のそばまで来たところ、住人らしい年配の女性が庭に出ているのに気がついた。80代くらいの、今では珍しい着物姿の老婦人だ。
老婦人の足元にはいつも遠目で見ている猫たちがいる。どうやらフードを与えているよう。
ここぞとばかりにわたしは老婦人に近寄り、こんにちは、と挨拶をした。
老婦人がいるからか、足元の猫達は逃げようとしない。
こんなに近くでここの猫達を見たのは初めてではないだろうか。
可愛い猫達ですね、と話しかけるわたしに、老婦人はにこやかに挨拶を返してくれた。
「ときどきこうしてご飯をあげるんだけど、わたしだと逃げないのよね。他の人だと逃げてしまうの」
老婦人は愛しげに猫達を見ている。飼えないまでも可愛がっているのだろう。
猫達は、老婦人とわたしから少し離れた場所で遊び始めた。
比較的大きい猫が1匹。小さい猫が3、4匹はいただろうか。
「お母さん猫と子ども達でしょうか」
問いかけるわたしに、老婦人は、いいえ、と首を振る。
「お父さん猫と子ども達なのよ。お母さん猫は子ども達を置いてどこかに行っちゃったのよね。でもお父さん猫がよく面倒を見ているわ」
し、シングルファーザーでしたか。
猫界もそんな世の中になっているんですね。
お父さん、頑張れ。

頑張れ、お父さん!
2匹目の猫は看板猫
ウォーキングコースの途中に商店街がある。
比較的古くて小さめの店が多い、昭和の雰囲気を残した商店街だ。
その中に看板猫がいる店があり、わたしはその猫と会えるのを楽しみにしていた。
道路に面したところがガラス扉になっていて、店の中がうかがえるようになっている。
ガラス扉のそばに小ぶりの椅子が置かれており、看板猫は椅子の上のクッションでいつも丸くなっている。
薄茶のキジ猫だ。短毛種だが、見るからに柔らかそうな毛並みをしている。
丸くなって寝ていることが多いのだが、たまに起きているときは、手を振ったりしていた。
わたしの手の動きを目で追ったり、前足で追ったりしているのがたまらなく可愛い。
その店の店主は、年配の人のようだった。
だからなのだろうか、あるときから、店にはシャッターが下りたままになった。
1日だけなら休みかと思うところだが、来る日も来る日もシャッターが下りている。
これは閉店してしまったか、と寂しく思った。
(後日気がついたが、早い時間だとシャッターが開いていた。どうやら閉店時間が早くなっただけのよう)
薄茶のキジ猫と、もう挨拶することはできないのか。
そんなある日のウォーキング途中のこと。
その店は、隣が草の茂ったちょっとした空き地になっているのだが、空き地に薄茶のキジ猫がいた。
わたしは嬉しくなってキジ猫のそばにしゃがみこんだ。
「今日は外にいるの?」
さすが飼い猫というか、わたしがそばにしゃがんでも逃げる様子はない。
どころか、すりすりとわたしの足にすり寄ってくれる。
思ったとおりの柔らかい体だ。わたしは思う存分キジ猫をもふった。
店にシャッターが下りているのは寂しいが、それからもたまに外を散歩しているキジ猫と会う。空き地を通るときは、そのあたりにいないかといつも目をこらしてしまう。
また会ったら、その柔らかい体をもふらせてほしい。切に願います。
3匹目の猫は駐車場の明かりの下で
ある日の会社帰りの夜のことだ。
住んでいる集合住宅は、1階が壁のない駐車場や駐輪場になっている。
駅から集合住宅の入り口に向かうときに、駐車場の横を通る。
駐車場にさしかかったとき、わたしの中の猫アンテナが反応した。わたしに内蔵されている猫アンテナはかなり高性能だ。
む、駐車場に猫がいる。
駐車場の弱い照明の下に猫がいるのが見えた。うずくまっているように見える。
驚かさないようにと、わたしはそろりと猫に近づいた。
が、ある程度近づいたところで、わたしの足はぴたりと止まった。
猫は1匹ではなかった。白い小さな猫にかぶさるように、もう1匹の、やや大きめの猫がいる。
こ、これは、あれですか、いわゆるひとつの、繁殖活動というやつですか。
なぜキミらは照明の下にいるのかね。あと少し離れたらもっと薄暗い場所に行けるよ。
相手が猫とはいえ、見てはいけないものを見た気分になり、なんとも気まずい。
と、下になっていた白い猫が振り向いた。わたしと目が合う。
まじまじとわたしの顔を見ている。猫の真顔ってこんな感じ。
一方、上になっている猫は、わたしに気づいた風はまったくない。
一心に腰を振っている。
腰を振り続けるやや大きめの猫と、わたしを真顔で見る小さい猫。
小さい猫に射すくめられたように、わたしはその場から動けなかった。
大きめの猫はひたすら腰を振っている。相変わらず人間に気づいた様子はない。
お馬鹿なの? オス猫ってお馬鹿なの?
それとも発情期のオスがお馬鹿なの?
わたしは小さい白い猫に射すくめられながら、邪魔して本当にすみませんと心の中で詫びつつ、じりじりとその場を後ずさった。

お、お邪魔しましたぁぁ
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