
我が家の猫のそもそもの話
実家にはわたしが愛してやまないオスのトラ猫がいた。
当時実家では20年以上動物を飼っていなかったのだが、ある日突然手のひらサイズの子猫がやってきた。
連れてきたのは同居していたオイツーだ。ちなみにオイツーとは2番目の甥という意味だ。
猫の名前をみゅうという。名付けたのはオイツーの元カノだ。
このあたりは説明すると長くなるので、ヘタれエッセイの『愛猫とオイツー』をお読みくださると嬉しい。
懸念材料だった父の反応は
猫を飼うにあたって、おそらくなし崩しにOKするだろうという読みがあった母はいいとして、懸念材料だったのは父だ。
父は、縦のものを横にもしないどころか斜めにしたら倒れたぞ早く元に戻せと怒りだすくらいの根っからの九州男児だ。
父の一喝で猫が飼えなくなる可能性は少なからずあった。
が、意外なことに、父は拍子抜けするくらいあっさりと猫を受け入れた。
「こいつはオスの三毛猫で縁起がいい。オスの三毛猫は守り神として海に出るときに船に乗せたりしていたんだ」
若い頃は自分の漁船で海に出ていた、元海の男の父は上機嫌だ。
たいていの猫は水が嫌いなはずで、そんな猫を船に乗せて海へ行くって大丈夫なのか、海辺の猫なら平気なんだろうか、と疑問に思わないでもないが話がずれるのでそれはひとまずおいておくとして。
みゅうは確かにオス猫だが、三毛猫?
彼の毛皮に色味は少ない。
腹は白い。足にはブチのように色味がはいっている。
色が入っているのは主に背中と顔の上半分、あとは尻尾だが、その色味は少ない上に黒い。
首の付け根からお尻まで濃い黒い毛が細く縦に引かれている。
黒い毛を中央に、茶、グレー、黒、茶、グレー、黒、と左右均一なグラデーション模様になっている。
その模様は限りなくシマシマに見えた。
彼は三毛猫?

み、三毛猫? これが?
「これって三毛猫っていうかな?」
当時あまり猫に関する知識はなかったわたしでもさすがにいぶかったが、父は断言する。
「茶と灰と黒の3色の毛があるんだから三毛猫だ」
ちなみに九州男児の父が発音すると、灰は、ヘ、になる。
父は満足げだし、夕飯に用意した新鮮な刺身を父からもらって猫も満足しているみたいだし、まあいいかとそのままにしてしまったが。
少しばかり調べてみたらオスの三毛猫というのはやたらと貴重なものらしい。
買おうと思ったらン十万円、ひょっとしたらン百万円の世界だ。
そんな貴重な猫がそのへんで拾ったりもらったりできるものか?
時は過ぎ、猫を動物病院デビューさせるときがやってきた。
たしかワクチンを打ちに行ったときだったと記憶しているが、そのときの大騒ぎは別の話にするとして。
ふと思いついて、眼鏡をかけた温厚顔の先生に疑問を投げかけてみた。
「この猫って三毛猫ですか?」
動物のお医者さんの返答は
わたしは見た。
眼鏡温厚顔の先生の口元が笑いに歪むところを。いまちょっと吹きました?
「ゴホッ、えー、三毛猫ではないですね」
そうですよね。
実はわたしもそうじゃないかと思っていたんですよ。
どう見てもシマシマですよね、これ。
こうしてみゅうは三毛猫からトラ猫へと変貌を遂げた。(元から三毛猫ではない)
もちろんトラ猫になったからといって、家族の愛情が薄れたわけではない。
みゅうに与えられる刺身の量が減ったわけでもない。

猫が幸せならいいか
ときどき思う。
トラ猫を三毛猫だと言い張る父と。
孫の彼女が別人になっても気づかない母と。
わたしのうっかり体質はいったいどっちから引き継いだのだろうかと。
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