
温泉へ行った話

温泉に癒やされに行こう
ゾエという名の友人がいる。わたしは背が低めの(たぶん)標準体型だが、ゾエは背が高くてスレンダーだ。わたしは事務系だがゾエはバリキャリの営業ウーマンだ。
わたしはアルコールはあまり摂取できない体質だが、ゾエはどんとこい系で、いくつもの酒に関する武勇伝を持つ。
こんな感じでゾエとわたしにはあまり共通項がないように思えるが、なぜかウマが合い、よく連れ立っている。
ゾエの武勇伝に関しては『ゾエがゆく』『ゾエとういちゃん』にも書いているのでお読みいただけると嬉しい。宣伝でした。
これはゾエが営業ウーマンとして仕事をするようになって数年経ったくらいだろうか、ゾエとネギとわたしの3人で温泉旅行に行ったときの話だ。
癒やされたい、と誰ともなく言い出し、そうだ、温泉へ行こう、となった。
生息場所が九州なので、幸いなことに1泊旅行で行ける場所に温泉は多い。
3人の予定を合わせるのに少し時間がかかったが、無事温泉旅行へ出発した。
温泉で癒やされる
今日は仕事を忘れよう、と号令をかけあい、土産物屋を見て回り、ホテルの美しさに歓声を上げ、美味しい料理と気持ちのいい温泉を堪能した。
あー、癒やされる。温泉っていいなあ。
女3人の裸のつきあいで、その夜は楽しいままで過ぎていった。
もちろんのこと仕事の話題など出ない。上司の愚痴は出たかな?
ほどよくアルコールが回ったのか、ゾエもネギもベッドに入った。日付が変わろうという頃ではなかったろうか。
わたしはベッドでしばらく本を読んでいたのだが。(旅行だろうとなんだろうとわたしのバッグの中に本が入っていないことはない)
2人ともすでにぐっすりと寝ているようだ。
明日起きられないと困るし、わたしもそろそろ寝ようか、と本を置いた。
隣のベッドではゾエが寝ていたが、んー、とかなんとか声を上げる。
目が覚めたの、とわたしはゾエに声をかけた。が、返事はない。寝ぼけただけか。
ベッドサイドの照明を消して、さあ寝るか、と枕に頭を落としたときだ。
あははは、と突然ゾエが笑い声を上げた。
正直に言おう。びっくりした。
夢の中で仕事をしている

仕事してるのか?
横にしたばかりの体を起こし、消したばかりの照明を再び点ける。
隣のベッドにいるゾエを凝視する。やはり寝ているよう。
すると、
「お疲れさまです」とゾエが言った。とてもはっきりした声だった。
「ゾ、ゾエさん?」
ゾエの返事はない。だがゾエの言葉は続く。
「そうなんですか? えー、それは大変ですねえ」
ものすごくはっきりと聞こえる寝言だった。そしてどう聞いても営業トークだ。
日頃の疲れを癒やそうと温泉に来たのに。
仕事のことは忘れようと言い合ったのに。
料理は美味しいし、温泉は気持ちよかったし、女子トークは盛り上がったのに。
こいつは夢の中で仕事をしているのか、と。
わたしは自分の目元をそっと拭った。
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