
仕事関係のセミナーで
会社に入ってから、仕事関係のセミナーに行く機会が増えた。
入社して1、2年という頃、社外のセミナーに参加することになった。
同年代の女性ばかりが20人ほど集まった、1日コースのセミナーだった。
そのセミナーに参加していたひとりの女性と親しくなった。
ばっちりメイクの女性が大半だった中で、ナチュラルなメイクをして、髪も簡単に後ろでひとつに括っただけの彼女に親近感めいたものがあった。
遠慮がちな(というか、発言しない)参加者が多かったが、セミナーで積極的に意見を出したり質問したりする彼女の姿にさらに好感を持った。
セミナーでは自己紹介や意見交換会のようなこともしたので、参加者たちはなんとなく親しくなり、わたしと彼女は自然に会話を交わすようになった。
セミナーが終わったあとで、せっかくだからお茶でも、とどちらからともなく言い合い、2人で喫茶店へ行った。
ひとりの女性と親しくなった

一緒にいて楽しい人だったんだよ
話していて楽しい人だと思った。趣味が似ていて、話が尽きない。
連絡先を交換して、ときどき連絡を取り合うようになった。
休日に一緒に出かけたこともある。わたしの友人を紹介して、一緒に食事をしたりもした。
彼女はとても行動力のある前向きな人だった。既婚者だったが、仕事をしながら資格取得の勉強もしていて、時間を作るのが大変だと言っていた。
仕事をして家事もしているのに、その上資格の勉強もしているのか、すごい頑張り屋なんだなあ、と感心した。
仕事だけでいっぱいいっぱいになっている我が身を振り返って、その差にへこんだりもした。
そんなある日、彼女から家へ遊びに来ないかと誘われた。
わたしは喜んで応じた。家へ誘われるなんて、より彼女と親しくなれた気がした。
旦那さんも在宅しているということなので、3人分のケーキを買って彼女の家へお邪魔した。
旦那さんも彼女と似た雰囲気の優しそうな人だった。
話し好きの人のようで、彼女との馴れ初めなどを写真を見せながら話してくれる。
奥さんのことを褒めて堂々と惚気る人って少数派だよねえ、とほほえましく思った。
突然出てきたカタログ

分厚いカタログが……
世間話が一段落した頃、彼女がふいに冊子を取り出した。
それはかなり厚みのあるカタログだった。
直前はなんの話をしていたんだったろうか。たしか彼女が使っている化粧品や洗剤がとてもいいという話だったか。
「ここの製品を使っているの。すごくいいのよ、これ」
彼女はカタログをぱらぱらとめくって話を始めた。
カタログにはキッチン用品やら化粧品やらサプリやら、それ以外にもさまざまな商品が掲載されているようだった。
彼女の商品の説明はいつまで経っても終わらない。すっかり『とても素晴らしい商品』の売りこみになっている。
部屋の一角に箱がいくつも積まれているのを不思議に思っていたのだが、このカタログの中の商品だったのだろうか。
おいおい、とさすがに思い始めた。楽しいおしゃべりはどこへいったの?
旦那さんはこの状況をどう思っているのか、とちらりと見やれば、ケージの中にいるハムスターの相手をしている。そういえば、いたね、ハムスター。
こちらの話を聞いているのかいないのか、すっかりハムスターに夢中だ。
商品の説明をする彼女の話は終わらない。さりげなく終わらせようとしても終わらない。
「ごめんなさい、せっかくだけど、わたしはこういうのは興味ないから」
彼女の話を遮ると、そう、と言って、ようやく彼女の話は終わった。
なんとなく気まずくなって、わたしはその後すぐ彼女の家を辞した。
彼女は遠くなった
気まずくなったのが気になっていたので、仕切り直しをしようとした。
仕切り直しをしたいと思うくらいには、彼女への好意はまだあったのだと思う。
今の自分なら、甘いよ、と突っこむところだろうが。
彼女に連絡を取って、お茶でもどうかと誘ったが、都合が悪いからと断られた。
そのうち連絡が取れなくなった。
その年は年賀状を出したが、返ってくることはなかった。
どうやら『お友達』としては切られたらしい。
昔からの友人に愚痴ったことがある。
「すごく頑張り屋で、前向きな人だと思ってたんだけどな」
ふーん、と言った後で友人は続けた。
「アサヒには、その人が前を向いているように見えたんだろうけどね。その手の金稼ぎをしようとするあたり、その人は前じゃなくて違うところを向いて突っ走ってたんじゃないの」
深い、深いよ、友よ。
大人になってから友人を作るのって難しいなと実感した話。