落とし物はなんですか

白い自動車

日常に響いた非日常な破裂音

わたしはその日もそれなりに会社で業務にいそしんでいた。
窓際で後輩女子と立ち話をしていたのだが、窓からはうららかな午後の日射しが射しこんでいた。
そんなときだ。なんとも形容しがたい破裂音が突如響いた。

な、なんの音!?

文字にするなら、ドガン、あるいはガガン、か。
近くに雷が落ちたのかと思ったほどだ。

うお、と窓の外を見たが、窓の外の風景に特段の変化はない。
わたしと立ち話をしていた後輩女子は、きゃ、と可愛い悲鳴を上げて、わたしの腕にしがみついてきた。
ちょっときゅんとした。

こ、これは、ついにわたしが持ち得なかった女子力というやつか。
わたしでさえきゅんとくるくらいなのだから、若人はひとたまりもあるまい。
後輩女子よ、沖端はキミの女子力がちょっと羨ましいぞ。

話が逸れた。
音の原因が気にはなったが、窓の外をちょっと見たくらいではわからず、まあそんなこともあるかと特に追求もせずに仕事を続けていたのだが。

音の原因はなんだ

音の原因が気になったらしい若手くんのひとりが外に様子を見に行った。
と思ったら、なんともいいがたい表情で社内に戻ってきた。
「そこの道路で車が自損事故を起こしたみたいすね」

職場のすぐ横に道路が走っているが、さほど広くはない。広くないなりに歩道も作られていて、車道と歩道を区別するようにポールが一定間隔で立てられている。
川も流れているので、車道、ポール、歩道、ガードレールの順で並んでいる。

そのポールが何本がなぎ倒されている、と若手くんは言う。
「ポールに車がぶつかったってこと?」
「ポールとガードレールすかね。白い車がぶつかったみたいすよ」

路肩にぶつかった車でも止まっているのかと聞けば、車は走り去ったみたいだと言う。
「車もないのに、なんで白い車がぶつかったってわかるのよ」
問うわたしに若手くんは答える。
「バンパーが落ちてるっす」

はい?

「道路に白いバンパーが落ちてるんす。車は走り去ったみたいすけど」
ああそりゃぶつかったのは確かに白い車だわ、じゃなくて。
バンパーって、そんなに簡単に落ちるものなんだろうか。
いやそんなことはあるまい。雷に似た音がしたと思ったのは、車からバンパーが剥がれた音だったのか。

落とし物はそこにあった、というか転がっていた

気になったので、外まで見に行くことにした。わたしが外に出たことではずみがついたか、一緒に話を聞いていた社員がわらわらと後に続く。
道路には確かに白いバンパーが落ちていた。それは見事な剥がれっぷりだ。
バンパーには車のナンバープレートもついたままになっている。

落としていくか、これ?

「持ち主はあっさりわかるでしょうねえ」
「なんで走り去るかねえ」
「バンパーもナンバーも剥がしたまま走ってるのかね」
「ポールが何本もやられてるわ。こりゃ弁償金は高いな」

集まった社員が好き勝手にしゃべっている。
道路の真ん中にバンパーを転がしておくわけにもいかずにとりあえず道の端までよけておく。

事態を放置しておくこともできずに、警察にも(なぜかわたしが)電話する。
その後警官に状況を説明したり(第一発見者の若手くんが出張と称して消えたので)上司に状況を説明したり(会社に話を聞きに警官が来たので)と非日常なひとコマを送ることになった。

警官から教えてもらったが、その日のうちに車の持ち主は見つかったらしい。
というか、自分から警察に電話してきたらしい。
いわく、気がついたらバンパーがなくなっていた、と。
いや、なくなったときに気がつくやろ。

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