
ピロリ菌と戦った話

ピロリ菌がいたんだよ
これはわたしが体内のピロリ菌と戦ったときの話だ。
それにしても、血圧とか歯痛とか胃カメラとか、わたしの書く話には健康に関係するものが多い気がするが、気のせいだろうか。それともひょっとしたら年齢的なものなのだろうか。
おまえさんもわしと同じ年になったらこの気持ちがわかるじゃろうて、ひぇひぇひぇ、う、げほげほっ。
まあ小芝居はいいとして。
最初に健康診断で胃カメラ検査を受けたとき、胃の中にピロリ菌がいると指摘された。ピロリ菌を除菌したほうがいいとアドバイスも受けた。
やはりいたか、と思った。体質からか性格からか、わたしは胃腸が痛くなることが多い。ひょっとしてピロリ菌がいるんじゃないかと考えてはいた。
ちなみにピロリ菌とは、こんな感じ。
『ヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori) とは、ヒトなどの胃に生息するらせん型のグラム陰性微好気性細菌である。単にピロリ菌と呼ばれることもある。ヘリコバクテル・ピロリと表記されることもある』── ウィキペディアより引用
1回目に病院でそう言われたときは、生来のめんどくさがりが顔を出し、治療することもなくそのままにしてしまった。
2回目に胃カメラ検査を受けたときも同じことを言われた。
胃の中にピロリ菌がいるから除菌したほうがいい、と。
さすがに同じことを何度も言われるとヘタれなわたしは気になってくる。
そんなわたしに健康診断担当の同僚が追い打ちをかける。
「沖端さん、ピロリ菌を持っている人が必ずしも胃がんになるとは限らないですが、胃がんになる人は必ずピロリ菌を持っているんですよ」
くく、そんな脅し文句にわたしがビビると思ったら大間違いだからね!
わたしはピロリ菌の除菌をすることにした。健康大事。
ピロリ菌の除菌
ピロリ菌を除菌するためには、抗生物質その他の薬を服用する必要がある。
数種類の薬を朝晩1回ずつ1週間服用し、その後除菌に成功したかの検査をする。
1回目の薬の服用で除菌に失敗した場合、2回目の薬を服用する。
2回目の薬の服用も数種類の薬を1週間だ。
1回目の薬の服用で除菌に成功する確率は70パーセントから80パーセント。2回目の除菌で90パーセント以上の確率で除菌に成功するという。
ただし、除菌薬服用での治療には副作用が伴う。
健康診断を受けた病院からの紹介状を手に、ピロリ菌除菌のためにおとずれた病院で医師に言われた。
「副作用には個人差があります。頭痛がしたり、腹痛がしたり、吐き気がしたり、体がだるくなったりと、症状はさまざまです」
なんて恐ろしい宣告だろう。
わたしがピロリ菌の除菌をする少し前に同僚が同じように除菌したらしいが、その同僚は薬疹がひどかったと言っていた。
いったい自分はどれくらいの副作用が出るものなのか。
考えるとちょっと恐い。
医師は続ける。
「どうしますか? 除菌薬の服用をしますか?」
ええい、一度決めたことだ。沖端に二言はありませんとも!
嗚呼、副作用

い、痛い痛い痛い
妙なところで思い切りのいいわたしは、やります、と返事をし、1週間分の薬を処方してもらった。
どんな副作用が出るかわからないので、薬を飲み始めるのは週末からにした。
金曜日の夜だったか土曜日の朝からだったか飲み始めた。
その週末は、いっさい予定を入れなかった。外出したのは近所のスーパーに買い物に行ったくらいだ。
さあどこからでも来い副作用、といった心境だった。
だがしかし、あれ、と思うくらい副作用は小さかった。
ちょっとお腹が痛いかな、というくらいだ。土曜日も日曜日も、なんということもなく過ごした。
なんだ、副作用ってこれくらいか。構えすぎて損したな。
もう、先生は脅かしすぎだよ。
そのときわたしはそう思っていた。
気が抜けたわたしをあざ笑うように、それは月曜日の明け方にやってきた。
明け方、猛烈な腹痛と吐き気で目を覚ました。
這うようにしてトイレへ行く。
い、いたい、かなり痛い。相当痛い。マジ痛い。
強烈な腹痛に吐き気、ついでにめまいまでする。
月曜日にこんなのがくるとは。服用3日目にひどいのが来るなら来るって言ってくれよ、先生!
ここにはいない医師に八つ当たりする。
朝の身支度をしながらも、何度もトイレと往復する。
その頃担当していた仕事は、特に月曜日が忙しかった。月曜日の朝は伝票が小山になっているのが常で、とてもじゃないが休むことはできない。
わたしは痛む腹を抱えながら出勤した。
会社までは電車通勤をしていた。片道20分ほどの道のりだが、シートに座って腹を抱えていた。(座ることができたのは幸いだ)
前屈みになって座っている間も、首の後ろを嫌な汗がいく筋も流れていく。
早く駅について、早く駅について、とひたすら念じていた。
あの20分間を耐え抜いた自分は褒められていいのではないだろうか。誰も褒めてくれないから自分でいうけど。
無事に会社に着いてからも、ひっきりなしに机とトイレを往復した。
同僚の女性社員には、これこれこういうことでと事情を話したので、同情された。
最低限の仕事を済ませた後は、半ば机にうつぶせているわたしを生温かい目で見守ってもらった。
結局副作用はその日が一番きつかった。次の日はずいぶん楽になった。といっても変わらずに腹痛はあったが。
幸いなことに、1回目の除菌薬の服用でわたしの胃の中のピロリたちはいなくなったようだ。
よかった、本当によかった。あれで失敗していたら病院で泣き崩れていたかもしれない。
さらばピロリたちよ、また会う日まで。いやもう会わなくていい。