
部屋にはロフトがある。わたしはそれを便利に使っていた
わたしが住んでいる部屋にはロフトがある。ワンルームと1Kの中間のような狭い部屋だが、この部屋に決めた理由のひとつは広いロフトがあることだった。
ロフトは3畳か4畳くらいの広さがある。
このロフトを、夏場以外は布団を敷いて寝室にし、物置にし、室内洗濯物干し場にし、とたいへん便利に使っていた。
ちなみに夏場にロフトを寝室にするのは無理だ。だってかなり暑い。
はしごを上っているだけで室温が上がっていくのがわかる。エアコンをつけてもロフトにはほとんど効かないし。
(令和現在は部屋にマットレスベッドを置いたので、ロフトを寝室として使うことはなくなった。もっぱら物置と洗濯物干し場だ。いやあ、夜中にトイレに行くのが楽になったよ)
なので、日に1度、多いときは2度3度とロフトへ上り下りしていた。
ロフトがあるおかげで天井も高い。
ロフトに上がるにははしごを使うが、このはしごの長さがおよそ3メートルはある。
1年2年となんということもなかったが、そのうち困ったことが起きた。
ロフトに上るはしごは壁面に金属のプレートで固定されているが、この金属プレートを止めているのは3本のネジだ。
このネジが見るからにゆるんできた。
わたしはドライバーでネジを締めるようにした。そうしないとどんどんゆるんでくるのだ。
しばらくはそれでしのいでいたが、しだいにドライバーを使う頻度が高くなっていく。
とうとう1本のネジが根本まで止めてもすぐにずるりと飛び出てくるようになった。
すでにネジの役目を果たしていない。
根がめんどくさがりのわたしは、それでもまあなんとかなってるし、とそのままにしていた。
そのうち残り2本のネジもゆるんできた。
とうとうロフトに1回上がるたびにネジの3分の1ほどがゆるんで出てきてしまうようになった。
ロフトに危険が忍び寄る

ロフトのネジが……
さすがにこれはやばいかも、とようやく危機感が身に迫ってきた。
なんせはしごの高さは3メートルはある。一番上から落下したらただごとでは済まない。
管理会社に連絡すべきかと思ったが、あいにくこのときは会社の仕事がたてこんでいた。
土日は管理会社に連絡を取ることができない。
連絡するにしても修理に来てもらうのは平日だ。
休みを取るのは難しい、というかこれくらいで管理会社に連絡するのもめんどうだ。
というわけで自力でなんとかすることにした。
ゆるんだネジを止める接着剤があるらしい。それがいいかと思ったが、話を聞いた知人が、ネジ穴がすでにネジより広がっているなら接着剤を使ってもあまり効果がないだろうから、一回り大きいネジに換えてみたらどうかと言う。
それもそうかと思い直し、その週の週末に勇んでホームセンターへと出かけた。
ネジを買い換えるなら今使っているネジを持っていったほうがいいだろう。
3本のネジのうち、一番ダメになっている1本を抜いていくことにする。
ネジの1本を抜いたが、残り2本もかなりゆるんでいる。そろそろとはしごを上り下りした。
ホームセンターにはそれはそれはたくさんのネジが並んでいた。まさかこんなにネジが多種多様だったとは思わなかった。
DIYの趣味がまったくないわたしは、売り場でネジを手に途方に暮れそうになってしまった。
スタッフの助けを借りてようやく目的のネジを購入する。
ネジ交換ってサバイバル?
部屋に戻り、またそろりそろりとはしごを上ってロフトに上がる。
はしごを止めている金属プレートは、はしごの一番上の段に固定されている。ロフトの上からネジを交換したほうがやりやすいだろうと考えたのだ。
おせじにも器用とはいえないうえにうっかり体質なわたしにとっては、ネジの交換といえど大仕事だ。
ロフトの上からかがんでネジを回す体勢がなんとも苦しい。
あまり身を乗り出すとロフトから落ちそうでそれも恐い。
なんとか古いネジを抜いて、一回り大きい新しいネジを差し込む。
一回り大きいものだから、力を込めてドライバーを回してもネジがなかなか差し込めない。
はしごを動かしたはずみにネジが全部はずれそうになる。
もしここでネジが全部はずれたら、とぞっとする。
ネジが全部はずれたらはしごが倒れるかもしれない。はしごが倒れたら3メートル下の部屋にどうやって下りればいいのか。
わたしはロフトの上で立ち往生してしまうではないか。
ロフトに上がるときは必ず携帯電話を持つようにしていたが、あいにくそのときは充電するために下の部屋に置いていた。
これでは万が一のときに助けを呼ぶこともできない。
仮に助けを呼べたところで部屋の扉には鍵とセーフティバーをかけている。
実家の家族には万一のときにと予備の鍵を預けているが、セーフティバーはどうしようもないだろう。
消防なりを呼んでバーを壊してもらわなければ家族が部屋に入ることもできない。
少しばかり想像力がたくましいばかりに、扉の修理代金が、敷金が、と思考はぐるぐる巡り、ドライバーを持つ手が震えた。
え、ネジの交換って、こんなにサバイバルなんだっけ?
妄想が暴走するよロフトの上で

妄想が暴走するよ
わたしはロフトの上で少し迷った。ロフトに上がるときに携帯電話を持ってこなかったのは失敗だったか。
どうしよう、一旦下に下りて体勢を整えるか。せめて携帯電話を取ってくるべきだろうか。
いやしかし、ネジが取れかけているはしごを下りようとして、足をかけた瞬間にはしごが倒れたらどうする。
このはしごの長さでは倒れたときに、ロフトとは逆端のベランダに続く窓まで届くだろう。そうすると遠心力でベランダの窓を突き破って体が外に投げ出されるかもしれない。
ベランダの柵を乗り越えたら地面までは一直線だ。自分が住んでいる階数を考えると、地面の次に行き着くのはあの世だろう。
いやいやいや、落ち着け、沖端。もっと建設的なことを考えようじゃないか。
仮にネジを交換できなくてはしごが使えなくなったとしてもだ。幸いにしてロフトには布団一式を置いている。
まず床に敷き布団を落とし、その上にあるだけの毛布を落とし、さらにその上に掛け布団を落とすのだ。このときに落とす位置がずれないようにするのだ大事だ。
できた布団の山をめがけてジャンプするのはどうだ。足から落ちてはいけない。足の裏という狭い範囲に体重が全部かかるからだ。
落ちるときは背中からがベストだろう。体を丸めて衝撃を殺すのだ。
下の部屋の住民には物音で迷惑をかけて申し訳ない。
なぜわたしはうららかな休日の昼下がりにこんなサバイバルなことを考えているのか。
ちょっとせつなくなってきた。
嫌な汗をかきながらもどうにかこうにか3本ともに新しいネジを差しこむことができた。
はしごが倒れることもなかったので、わたしがベランダから落下することも布団の山めがけてジャンプすることもなかった。よかったよかった。
一回り大きいネジはさすがに固く、ネジの3分の2ほどしかネジ穴に入れることができない。
わたしの力と百均で買ったドライバーではこれが限界だ。
とりあえず上り下りするときにはしごがぐらつくことはなくなった。
やればできる。ひとりでできるもん、とはこのことだろうか。
でも次にネジがゆるんだときは迷わず管理会社に電話しよう。
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