
友人、カナの話
カナとは長いつきあいになる。黙って立っていれば美人なのに、なぜこいつはこうなんだろうというところの、いわゆる『残念な美人』だ。
黙って立っていれば美人なのに!(大事なことなので2回言いました)
あれはカナの家に泊まりにいったときのことだ。
お風呂どうぞ、とカナに言われ、わたしはカナと交代してお風呂を使わせてもらった。
カナは腰まである長いストレートの黒髪で、風呂上がりはいつもそうしているといっていたが、バスタオルでタワーのように髪をぐるぐる巻きにしていた。
寝る前なので着ているのは当然パジャマだ。
わたしがお風呂から上がってカナの部屋へ戻ったのは30分後くらいだと思う。
なぜかカナの部屋が薄暗い。
豆球しか点いていないような明るさ、いや、暗さだ。
今からしゃべり倒すつもりだったが、もしかしてもう寝てしまったのだろうか。
カナの部屋で、深夜
「カナ?」
言いながらわたしは部屋に入った。
薄暗い部屋の真ん中に女が正座していた。
白いワンピースを着ている。
長い黒髪を顔の前面にばっさりと垂らしている。
そこにいるのはホラーの代名詞『サダコ』だった。
「カ、カ、カナさん?」
わたしの声は明らかに上擦っていた。
女はなにも答えない。
正座していた女が、突然ばったりとうつぶせになった。
と、ほふく前進するようにのそりのそりと近づいてくる。
いや違う。ほふく前進はあんなクモみたいな歩きかたはしない。
髪がばさりと垂れているせいで表情はまったく見えない。
怖い、怖いよこの人。お父さん、なにかがやって来るよ。

怖い、怖いよ
なにかがやって来るよ
言い忘れたがカナは学生の頃から演劇をしている。
その頃は地元の劇団に所属していて(福岡にはそういった小規模の劇団が数多くあった)その劇団の主演女優を努めていた。
黒髪を畳に流しながら女は無言で這い寄ってくる。
サダコだ。サダコが来る。きっと来る。
曲げた指の爪を畳に突き立てるようにして一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
「わかった、わかったからそろそろやめようか。つーか、お願いやめてください。真剣に怖いです」
女は無言のままだ。
立ちすくむわたしの間近に女は迫り、そしてわたしの腕を掴む。
ぎりぎりと力が込められ、手首に食いこむ指が痛い。
「わかった、わかったからやめてえ」
わたしはすでに半泣きだったと思う。
がばりと女が顔を上げ、髪のあいだから光る目が覗き。
そして。
「お風呂、あったまった?」
にっこりと笑った。
冷えたわ、今ので! ものすごく!
ばくばくいう心臓をなだめて部屋の電気を点ける。
ストレートロングのカナはやはり白いワンピースを着ている。
30分前はパジャマだったのに、わたしを脅かすためだけに着替えたのか、こいつは。

なぜ白いワンピを着ているんだ
「なぜ真夜中にサダコになったのか聞かせてもらおうか」
おかげでうっかり心臓が止まるところだった。
カナはこてりと小首をかしげた。
ああ、普通にしていれば可愛いのに。(大事なことなので以下略)
「えーと、クローゼットを開けたらそこに白いワンピがあったから?」
登山家か!