
責任を取る、とは
責任を取る、と聞いて、どんなことを想像するだろうか。
頭に浮かぶのは、テレビで見る光景だ。政治家、あるいは著名人や芸能人がなにごとかをやらかして、謝罪会見を行う。
謝罪をし、やらかしたことに対しての責任を取る。
責任の取りかたはやらかしの程度や職業や立場によって異なるのだろうが、謹慎だったり減給だったり、あるいは辞任だったり引退だったり。
テレビの向こうの人たちの責任の取りかたではなく、もっと身近で起こった出来事を思い出す。
彼は、会社に出入りしていた運送会社のドライバ-というか配送スタッフで、毎夕会社から出す運送便を受け取りに来てくれていた。
年齢は当時で20代後半くらいだろうか。背の高い、なかなかガタイのいい男性だった。
昔はやんちゃだったであろう、彼の話

実にお見事なリーゼント
昔はけっこうやんちゃしてたんだろうなと思わせる顔つきと雰囲気をしていたが、彼を特徴づけていたのは、なによりもそのヘアスタイルだろう。
彼は明るい茶髪を、見事なリーゼントにしていた。
その当時でもあまりリーゼントにしている人は見なかった。まあまあ珍しいヘアスタイルではなかっただろうか。
しかし、彼がリーゼントヘアに並々ならぬこだわりを持っているのは端で見ているだけでもよくわかった。
運送ドライバーという体を使う仕事をしているし、毎日の運動量もかなり多そうなのに、彼はいつもきっちりとリーゼントを決めていた。
本当に見事で、真夏の夕方に見てもそのリーゼントには一筋の乱れもない。
どのくらい髪が固まっているものか、一度触らせてもらえばよかったとちょっと後悔している。
毎日会社で顔を会わせているうちに雑談などもするようになった。見かけのやんちゃぶりに反して話し好きな人だった。
奥さんと子どもの写真を見せてもらったこともある。彼が嬉しそうに差し出した携帯電話の待ち受けには、きれいな奥さんと生まれて数ヶ月だろう赤ん坊が写っていた。
奥さんも昔はやんちゃしてたのかな、となんとなく思わせるような感じではあった。
彼なりの責任を取った?

なにがあった?
あれはいつのことだったろうか。
夕方彼がいつものように荷物を受け取るために会社にやってきた。
彼の姿を見て、わたしはぎょっとして声を上げた。
「どうしたんですか、その髪」と、挨拶するより先に聞いていた。
彼がおそらくとてもこだわっていて自慢にしていたと思われる立派なリーゼントが、影も形もなくなっている。
スポーツ刈りよりもランクアップしたような、いっそお見事な坊主頭になっていた。
色は残っているのか、なんとなく茶色っぽいごく短い髪がある。
「奥さんに浮気でもバレたんですか?」
わたしの軽口に、彼は、はは、と力のない笑みを見せた。
「皆そう言うんですよねえ」
そりゃ言いますよ。他になにが考えられると?
おそらく行く先々で同じようなことを聞かれただろう彼はわたしの問いに答えることはなく、荷物を受け取って去っていった。
ガタイのいい彼の、いつもよりも少し小さく見える背中に、わたしは男の責任の取りかたを見た、ような気がした。
というか、なにをやらかしちゃったの?