
「メリーさんからの電話」とは
『メリーさんからの電話』という都市伝説をご存じだろうか。
いろんなパターンの話があるようだが、基本形はこんな感じ。
少女が古くなった人形『メリー』をゴミ捨て場に捨てる。
するとメリーから少女に電話がかかってくる。
「あたしメリーさん。今ゴミ捨て場にいるの」
電話を切ってもすぐにかかってくる。
「あたしメリーさん。今タバコ屋さんの角にいるの」
電話がかかってくるたびにメリーさんは少女に近づいてくる。
そしてついに「あたしメリーさん。今あなたの家の前にいるの」という電話が。
思い切ってドアを開けても誰もいない。
いたずらかと思った直後また電話。
「あたしメリーさん。今あなたの後ろにいるの」
以前テレビの再現ドラマで見たことがあるが、それまではかわいらしい少女の声だったメリーさんが、最後に「今あなたの後ろ」と告げる声だけがなんとも怖ろしげなものに変わっていて、それはもうホラーだった。
『メリーさんからの電話』の怖さというのは、正体のわからないものがだんだんと近づいてくる怖さだろうか。
そんなことを考えたのは、会社にかかってきた1本の電話がきっかけだった。
メリーさん(仮)から会社に電話がかかってきた!

始まりは海外ナンバーの電話だった
電話機のディスプレイに見慣れない番号が表示されていて、おや、とわたしは思う。
この表示の仕方は、海外からの電話?
職場は地域密着型の仕事をしていて、海外からの電話などあまりない。あまりないというか、めったにない。
そしてわたしは標準語と地元の方言以外は話すことができない。
かなり及び腰になりながら電話を取った。
受話器の向こうからは男性の声が聞こえてきた。その言葉が流暢な日本語であることに、まずはほっとする。
「わたしはM(名前を忘れたのでメリーさんの頭文字からとってみた)といいます。香港の企業の者です」
Mさんいわく、香港で水(ミネラルウォーターのことか?)に関係する仕事をしていて、日本でパートナー企業を探している。ぜひそちらの会社と仕事をしたい、という。

どゆこと? なぜウチの会社に?
なぜに香港? なぜに水?
九州の端で地域に密着した仕事をしている身としては、まさに寝耳に水、というか香港から水。
一応上司にお伺いを立ててはみたが、
「香港? 水? なんやそれ。ウチ関係ないやろ」
意訳するところの「丁重にお断りしてください」という指示が(予想どおり)きた。
ので、意訳どおりの返答をおこなった。
少々ねばったが、思ったよりもあっさりと男性は引き下がった。
彼はだんだん近づいてくる
数日後、海外からの電話のことなどすっかり忘れた頃、くだんの男性から再び電話がかかってきた。
「Mです。日本に来ました。ぜひ御社と仕事の話がしたい」
日本上陸キターー!

上陸キターーー!
先日の電話よりも声が近い気がするのは日本海を隔てていないせいか。
まて、落ち着け沖端。
彼が日本に来たとしてもおそらく今いるのは東京だろう。
ここ福岡までは千キロ以上ある。
相手は遠方だ。落ち着くんだ。
わたしは先日と同じような断りの言葉を述べた。
とうとうそのときがやってきた
だがしかし、その後も彼はあきらめなかった。
それは香港流なのか、それともオレ流なのか。
電話はその後もかかってき、そしてかかってくるたびに彼はこちらに近づいてくる。

どんどん近づいてくるよ!
「Mです。仕事の都合で九州に来ました。話がしたいです」
「Mです。福岡に来ました。話がしたいです」
あわわ。
何度もお電話いただき恐縮ですが、申し訳ないのですが弊社は御社のご期待に添うことはできかねまして、あわわ。
そしてとうとうそのときはやってきた。
「Mです。いまあなたの会社の駐車場にいます」
メリーさあああぁぁぁぁん!!