
度が過ぎたものは、足りないものと同様によくない。不十分なのも困るが、過剰なものには弊害があり、物事にはほどよさが大切である。── コトバンク
飲んだ日の帰りの足の話
まだ実家に住んでいた頃の話。最寄り駅まで車で通っていた。ちなみに田舎なので住民には車が必須の場所だ。
最寄り駅までは車で15分ほど。最寄りのバス停までは歩いて10分? もっとかかるか?
なにが言いたいかというと、飲んだ日の帰宅が大変。
さして飲む日はないのでそれほどの不都合はないのだが、会社員であれば避けては通れない飲み会だってある。そのときは、
1.飲まない
2.代行、あるいはタクシーで帰る
この2択しかない。
2のタクシーでの帰宅を選択した場合には、当日の朝に駅まで行く足を手配しないといけない(家人に送ってもらうとか)
1を選択することが多いのだが、まあ素面で参加する会社の飲み会のつまらないことといったらない。他人が酔っ払っていくサマをただ見ているだけなのがあんなにも苦痛だとは。
基本的に飲み会が得意ではないので(最初の1時間くらいはまあまあ楽しめるが、あとは忍耐)「なんで金を払って時間を使ってこんな苦行をせねばならんのか」の境地になってしまう。
せめて自分も酔っていれば多少はましだろうに。
というわけで、ときたま2を選択することがあった。
だがしかし、2を選択するとなると帰りの足はタクシーになる。深夜のタクシー料金は高い。その料金を払っても惜しくないと思えるていどには楽しみたいと考えるのは人の常ではないだろうか。というわけで、さほど強くもないのに酒を飲み進めることになる。
金をかけるからには飲みたいと思うものだろう
そう、あれは確か会社のなんだかのパーティでのことだった。
近くのホテルのパーティルームを借りて、それは仰々しく行われた。
社内の人間のみの集まりではあったが、当然お偉いさんも参加していた。
せっかくのパーティだからということで、その日わたしは2の、帰りはタクシーにする、を選択していた。
だが残念なことに、そのパーティ会場にはあまりお酒の種類はなかった。
あるのはビールとか日本酒とか焼酎とかウィスキーとかそのあたりだ。
わたしでもおいしく飲めるカシスソーダやファジーネーブルなどのカクテル類はなかった。おしゃれなホテルなのに!
そこであきらめればよかったのかもしれない。しかし帰りに確実に払わなければいけないお高いタクシー代のことを考えると、少しくらいアルコールを摂取したいと思ったわたしに同感してくれる人はいるはずだ(お願い、いてくれ)

タクシー代をかけるからには飲みたいよね
結局わたしはウーロンハイだがなんだかを飲んだと思う。
あんまりおいしくないなー、と思いながらもちびちびと飲んでいた。途中、ちょっと日本酒も飲んだかもしれない。
ああ、考えるだにお馬鹿なことをやってしまった。なぜ飲めない酒を飲み続けてしまったのか。
そしてそれは突然にやってきた。すう、と血が引く感覚。逆に、胃からうっすらとこみ上げるものがある。
やばい、酔った、と気づいた。
あたりはなごやかな談笑が続いている。
わたしはこっそりとパーティ会場を抜けだそうとした。今ならまだ間に合うはずだ。
洗面所に籠もらなければ。そして同じテーブルの同僚がわたしの不在に気づいて洗面所まで様子を見に来てくれることを祈ろう。
そっと席を立とうとしたら、司会者がマイクを取った。
「ではここで、○○様にご挨拶をいただきます」
万事休すの事態に
万事休すだ。抜け出せない。椅子に座っていることもできない。
まずいまずい、と思いながらも、どうにもできずに周囲に合わせてわたしも立ち上がる。
血が引く感覚は続いている。せめてもと、座っていた椅子の背に手をかけて体を支えた。
近くにいた同僚がなにかを話しかけてくる。
その同僚と2言3言話したのは覚えている。
一瞬目の前が暗くなり、気づいたらわたしはパーティ会場の床に転がっていた。
手をかけて体を支えていた椅子も一緒に近くに転がっている。
わたしと椅子といっぺんに転がったために音が響いたらしく、パーティ会場の視線を一身に集めていた。
○○様のご挨拶はどうなったんだろう。
寸前にわたしに話しかけていた同僚が、驚きの顔でグラス片手にわたしを見下ろしている。
ホテルのスタッフが慌てて駆け寄ってくるのが見える。
「大丈夫ですか」とのスタッフの声を、どこか遠くに聞いていた。
ああその先は思い出したくない。
すいません、ことわざをもうひとつ追加してもいいですか。
「後悔先に立たず」
こうして沖端黒歴史がまたひとつ追加された。

黒歴史がまたひとつ……
くだんの同僚からは、後日謝られた。
「ごめんな、目の前で倒れたのに、俺が支えることができなくて」
いや無理でしょう。いきなりぶっ倒れた人間を支えることができるのはマンガかドラマだけですって。
そっとしておいて。でも気持ちはありがとう。
〈PR〉