昔の少年達が会社で戯れている

遊ぶ少年達

戯れ その1


金曜日の昼下がり。なんとなく社内が週末気分で浮かれる頃。
上司が出張でいなかったりすると、フロアの空気は一気に緩む。

ふとフロアを見ると、元ヤン系男子が、やんちゃ系男子の尻を掴んでいたりする。
えーと、なにやってるんですか?
「気分転換にこいつのケツ揉んでるっす。けっこうイイっす」
わたしも揉んでいいですか、じゃなかった、とりあえず写真を撮っていいですか?

口にできなかった控えめな自分が悔やまれる。せめて楽しそうな2人の様子を脳裏に刻みつけておこう。

戯れ その2


残業している人はいるものの、1日の仕事を終えたフロアは昼間とは違う、少し緩んだ空気が流れている。
今日も頑張った、とわたしは伸びをしていたが、ふと見るとフロアの隅で2人の社員が熱心に話をしている。
ひとりはわたしが忘年会で当たった大人の缶詰をプレゼントした癒やし系男子、ひとりはこのあいだやんちゃ系男子の尻を揉んでいた元ヤン系男子だ。
そういえばこの2人は同じ部署の先輩後輩だった。

熱心だなあ、とわたしはその光景をほほえましく見守る。
上司へ提案する企画でも練っているのか、それとも取引先へのプレゼン資料を作っているのか。
それにしては元ヤン系先輩がなぜかコーヒースプーンを手にしている。
癒やし系後輩は熱心に説明している。

「本当ですって。このあいだ俺やったんですよ。そうやってこすってるうちにスプーンが柔らかくなって曲がったんですって」
「マジかよ。こうやってこすったら曲がんの? このスプーンが? マジで?」

熱心な打ち合わせじゃなかったの?

仕事しろよ。

彼らはとても熱心にスプーン曲げに挑戦していた。
癒やし系後輩の説明に、元ヤン系先輩はしきりにスプーンの首をこすっている。
その瞳はとてもきらきらして楽しそうだ。
おお、これが少年の瞳というものか。

スプーン曲げか。わたしも昔やったっけ。あれはたしか小学生の頃だったな。

彼らの背中にまぼろしが見えた気がした。あれは少年の翼なのか、それとも天使の羽根つきランドセルか。
とりあえず同僚の義務としてつっこんでおくことにした。

そのスプーン、会社の備品ですよ。あんまり数がないんですよ。

「大丈夫っすよ。このスプーン曲げは、曲げてもスプーンがまた元に戻るんっすよ」

うお、きらきらが眩しいよ。
わたしはそっとその場を後にした。
翌日、給湯室には変わりのないスプーンが置かれていた。
きっと曲がったスプーンが元に戻ったのだろう。

戯れ その3


またまたある日の夕方、わたしはフロアを歩いていた。
今日も彼らは熱心に話をしている。
癒やし系後輩と元ヤン系先輩。その隣で黙って2人の話を聞いているのは、最近異動してきた彼らの上司だ。
元スポーツ青年風の気さくで爽やか上司。しかし前から思っていたが、この部署はやたらとイケメンが多い。
社内からかき集めたかのようにイケメンが揃っている。イケメンが転勤してしまった、寂しい、と思っていると、違うイケメンが後任として赴任してくる。

去るのもイケメン、やってくるのもイケメン。
なんだこのイケメンループ部署。いったい誰の趣味だ?
しかしイケメンが増えて喜ばない女性がいるだろうか、いやいない。(反語)
というわけで、わたしはイケメンたちの会話をこっそりと聞いていた。

「おまえが言ってるのはどう違うんだよ。どっちも同じだろうがよ」
「いや全然違いますって」
元ヤン系先輩と癒やし系後輩の会話は熱い。熱いよ、キミたち。
かたわらで聞いているスポーツマン系上司も腕を組んで難しい顔をしている。

おお、今日は真剣な話をしているんだねえ。このあいだのランドセル背負ってる会話が嘘のようだよ。
「わかんねえよ、どう違うのかちゃんと説明してみろよ」
元ヤン系先輩は声を上げ、癒やし系後輩は言いつのる。
「違いますって。ホットケーキとパンケーキはまったく別物ですって」

熱心な打ち合わせじゃあ? デジャヴ?

おーい?

「だから、どう違うのかわかんねえよ」
「この近くにある、すごいうまいのはパンケーキですって」

とりあえず戻ってこい?

スポーツマン系上司が組んでいた腕をほどいて、ぽんと膝を叩いた。
「よし、行くか」

行ってこい!

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