トモとの約束

向かい合う二匹の猫

わたしとトモの話

友人の名をトモという。トモとわたしは同い年だが、知り合ったのはお互いまだほんの小娘の頃だ。
なにかと欠点の多い子で(まあお互いさまだ)わたしはトモに怒ったり呆れたり文句を言ったりしたものだが、それ以上にトモに憧れていた。

トモの周囲には、トモに惹かれて、トモの作り出す作品や世界に惹かれて何人もの人が集まっていた。わたしもその中のひとりだ。
トモが芝居に関わっていたから、わたしも芝居を見るようになった。
トモが手がける舞台の裏方をしたりもした。
トモが小説を書いていたから、わたしも小説を書くようになった。

トモは数人の友人と一緒に、若いうちに地元を離れて上京した。
あれはまだトモが上京する前だから、22、23歳の頃だろうか。

当時トモが住んでいたアパートはみんなのたまり場のようになっていて、常に誰かが部屋にいた。今にして思えば、よく周りの部屋から苦情が出なかったものだ。
そのときも部屋には5、6人集まっていたと思うのだが、トモとわたしの2人だけになる時間があった。

トモとした約束

他愛のないおしゃべりの続きでトモは言った。
「アサヒはこれからも小説を書き続けていくんなら、もしわたしが死んだときは、それを小説にしないといけないよ」

当時のわたしに『死』という言葉ははるかに遠く、そのくせ得体の知れない重さを持っていた。
トモの突然の言葉に、わたしは一瞬言葉を失った。
言葉を失った自分をごまかすように、わたしはうなずいた。
「わかった、そうする。じゃあ、トモも、わたしが死んだときは、そのことを小説にして」
トモは、もちろん、と笑顔で即答した。

わたしとトモは、どちらか片方しか果たすことのできない約束を交わした。
それから長い時間が経って、約束を果たすのはわたしの役割になった。

果たしていない約束

わたしはまだトモとの約束を果たしていない。
闘病日記を書いたけれども、これで少しは果たしたことになるだろうか。
まだまだこんなもんじゃ足りない、とトモから文句を言われそうだ。

ほんの小娘の頃の、他愛のないおしゃべりだったかもしれない。
わたしとトモ以外には、誰もその言葉を聞いていない。なにもしなかったからといって、誰もなにも言わない。
だけれど、わたしはトモと交わした約束を覚えている。

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