会社大捕物物語

緑の蛇

抜け殻はそこにあった

はっきりいってわたしが住んでいるところは田舎だ。
実家は田んぼに囲まれているし、夏には蛙が大合唱する。
家の中にはこぶし大の蜘蛛が出る。
愛すべき地元ではあるが、田舎であることは否めない。
(令和現在では、特に駅周辺がだいぶ開発されてきた)

勤務先は実家よりも都会だと思う。いや、思っていた。
思っていたのだが、実は田舎っぷりではいい勝負だったのだろうかと考えるようになった。
なぜなら実家ではでかい蜘蛛が出るが、会社にはでかい蛇が出るからだ。
本当だ。
最初にそれを見つけたのは誰だったろうか。

「沖端さん、抜け殻です」
「失恋? 仕事で大失敗した? それともまさかの株で大損したとか?」
「違います。わたしが抜け殻になったんじゃありません。抜け殻があるんです」
なにを言っているんだこいつはと思ったが、こっちこっちと示す先について行ったら本当に抜け殻はあった。
場所は会社の会議室だ。ゆうに1メートル以上はあると思われるそれはそれは見事な抜け殻が会議室の真ん中で波打っている。
ちなみにそのときは本体は見当たらなかった。

「立派な抜け殻だね」
「でしょう」
「つまり、この部屋で蛇が脱皮したと」
「このサイズだと青大将ですかね」
社内は騒然となった。いまもこの会議室のどこかに青大将がとぐろを巻いているかもしれないのだ。

社内のどこかに蛇がいる

どこかにでかい蛇がいる

騒然とはなったが、皆静かに仕事に戻った。
なにがあろうとまずは仕事だ。会社員ってすごい。
長くてでかい抜け殻は上司がコートハンガーにかけた。乾燥したら持って帰るつもりらしい。

コートハンガーにかけられた抜け殻は、2重にも3重にも波を作っている。
「蛇の抜け殻を財布に入れると金運が上がるんだぞ」
嬉しそうに上司は言う。
抜け殻で財布がいっぱいになって金運どころかお金が入るすきまもなくなるんじゃないかと思ったが、突っこむのはやめておいた。
静かなようでどこか緊迫した空気の中でどのくらい仕事を続けていたのか。もしかしたら数日は経っていたかもしれない。

「いたぞ!」
誰かが容疑者を見つけた刑事のようなセリフを言った。
ヤサは最初に抜け殻を見つけた会議室だった。どっと周囲に人が集まる。
「で、ホシはどこにいるんですか?」
同僚の背中越しに会議室をうかがう。

ホシは少し前まで会議室の中にいたらしいが、わたしたちが騒いだので、壁際に並んだキャビネットの裏に入りこんでいったらしい。
いるのが確実にわかったので、その場は若手を中心にした大捕物の様相を呈してきた。
とはいえ、田舎っ子ではあるものの、そこは今どきの若手くんたちだ。
棒状のものを持ってきてちょいちょいとキャビネットとキャビネットの間をつついているが、すっかり腰が引けている。
そんな緊迫した会議室に、

彼の登場で事態は動く

支社長、かっこいいです

「蛇がいるってえ?」
ずいと顔を出したのは、たまたま会社に顔を出していた、別の支社の支社長だった。
還暦まであと数年という年齢ながら、精悍な顔つきを持つ人だ。
若かりし頃のやんちゃぶりがうかがえる楽しそうな表情を浮かべている。
「なんでもいいから棒持ってこい、棒。長いヤツだ」
腰が引けている若手を尻目に、手渡された棒を持ってキャビネットに向かっていく。
後で見たら、棒は2本のモップをガムテープで巻いて結んで長くしたものだった。

会議室の外で野次馬と化してどのくらいの時間見守っていたのか、得意満面の顔で支社長が姿を見せた。
2本のモップで作った即席の得物には、ぐるぐると青大将とおぼしき長い蛇が巻きついている。
歓声がその場に満ちた。
支社長はやんちゃ少年のままの顔で笑う。
「昔はこうやって川で蛇を捕まえたもんだ」
かっこいいです、支社長。
でも蛇をこっちに向けるのはやめてください。

その場にいた全員が拍手で見守る中、蛇は外に連れ出された。
近くに川が流れているので、そのそばで放すようだ。
こうして、社内の大捕物は無事終了した。
支社長にとっては、その日行われた会議よりも、よほど大きな成果だったに違いない。

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