ゾエは男前な営業ウーマン

走る虎

友人ゾエと会う

ある日の休日、わたしは久しぶりに友人ゾエと会っていた。
電話やLINEはよくしているが、直接会うのは久しぶりだ。

天神駅でゾエと合流し、朝食(というかブランチ)でも食べようか、ということになった。
さすが営業職というべきか、ゾエはおいしい店をよく知っている。
駅ビルの中においしいパンのお店があるということで、そこへ行った。

時間が早かったのでまだモーニングセットがある。クロワッサンサンドのセットやフレンチトーストのセットなどがあり、いきなり迷う。
うーむ、目移りする。どれにしよう。
セットにするか、単品でパンと飲み物を合わせるか、いやしかし、お値段的にはやはりセットのほうがお得か。
ショーケースの前をうろうろしながら悩んでいると、横にいて、同じようにどれにしようか悩んでいたゾエがちょっと離れた。

おや、と思って見たら、どこかと電話している。
話しぶりから、プライベートの電話ではないのはわかる。

休日の朝から仕事の電話か、とわたしは思った。ゾエと一緒にいると、ときどきこうなる。
ゾエの様子を横目で見つつ、ちょっと時間がかかりそうだなと思ったわたしは先に注文を済ませることにした。

うむ、フレンチトーストのセットにしよう。サラダもつけよう。ついでにデザートもつけよう。
などといろいろとオプションをつけていたら、とてもモーニングセットとは思えないお値段になってしまった。まあいいか、たまのことだしね!

たまにはおしゃれにモーニングを

休日だろうが電話はかかる

注文したセットを手に席に着く。コーヒーに口をつけているうちにようやくゾエがやってきた。
手にしたトレイにはクロワッサンサンドのセットが乗っている。
おお、やはりクロワッサンもおいしそうだ。

「ごめんごめん」とゾエは遅れて席に着いたことを詫びる。
「いやいや、ゾエも大変だねえ」
休日も電話がかかってくるんだねえ、と言うわたしに、これくらいはよくあることだよ、とゾエは答える。

ゾエがクロワッサンにかじりつこうとした時、再度電話がかかってきた。
ゾエはさっと電話に出る。話しぶりからして顧客からの連絡のよう。なにやら説明をしている。
納品してもらった○○の使い方がわからなくなって、ああそれはですね、というところだろうか。

そういえばゾエが今使っているのは会社から支給されているスマホのようだ。休日のお出かけにも会社スマホの携帯は必須なのか。
電話の向こうの顧客からなにやら質問されたらしく、それに答えながらもう1台のスマホ(明るい色のケースを使っているので、こちらは自分のスマホだろう)で調べ物をしている。

おお、器用だな。なるほど、ゾエと電話しているとき、気になる店の話題になったときなどに、ああ、その店は○○区にあるね、○○がおいしいみたいだよ、とか答えることがあるが、こうやってスマホを2台使って会話と調べ物をしていたからなのか。

スマホで話をしているゾエを見ながらわたしは自分のフレンチトーストを食べる。うお、おいしいわ、これ。添えてある生クリームとの相性もばっちり! うまー。

ゾエはというと、会話の隙をつくように、クロワッサンサンドにかじりついている。
せっかく店でも評判のクロワッサンサンドなのに、味わっている気配はまるでない。

うむ、大変じゃのう

やはりゾエは男前だ

席に着いてから、電話をしているゾエとの会話はほぼない。フレンチトーストを味わっているし、なんならゾエを観察しているわたしはこの状況を面白がっているが。
うーむ、これはカップルだとしたら、放置された彼女はどう思うのだろう。
わたしと仕事とどっちが大事なの、とかむくれるシーンだろうか。

どうでもいいが『人間』と『仕事』って、比較する対象としてかなり無理があるのではなかろうか。
せめてもうちょっとジャンルを寄せていかないと。
冷蔵庫と電子レンジだったらどっちがより大事か、とかね。電化製品というくくりは一緒だしね。

わたしだったらどっちだろう。どっちもないと困るな。比較を鍋と電子レンジに変えていいかな。そしたら電子レンジに即決だから。なんせ使用頻度が違う。

とか考えているうちに、ようやくゾエの話は終わったようだ。休日の朝だというのに、すでにひと仕事を終えた感がある。
クロワッサンサンドの最後のひとかけらを口の中に放りこんだゾエに、おいしかった? と聞いてみた。
ゾエは沈黙した。やはり味はわかっていない。

「しかし大変だね。休日も会社のスマホを持ち歩くなんて」
話題を変えたわたしに、バッグに2台のスマホをしまいながらゾエは答える。
「お客さんには休日なんて関係ないしね。緊急の場合もあるし。営業なら会社のスマホを常時携帯するのはあたりまえのことだよ」

おお、今日も男前だね、ゾエ!

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