
町の人が倉庫に集まる
それは町のはずれにぽつんとあった。2階建ての大きな、古い倉庫のように見える建物だ。
その倉庫にカップルや家族連れなど、町の人がぞくぞくと集まってくる。
自分の家族の顔もあった。
倉庫の2階には女性や子供、年寄りが集められた。
下には降りないでください、と人々を2階に誘導したわたしは言う。
下に降りたら生命の保証はできません。
2階に集まった人々は不安そうに顔を見合わせている。
わたしは言いながら不思議に思う。
戦闘能力のない人たちを2階に避難させた。それはいいとして。なぜにわたしは2階行きのメンバーの中に入っていないのだろう。
戦闘能力がかけらもないのは自分がよくわかっている。
不思議に思いながらもわたしは1階に降りる。
1階にも人々が集まっている。若い男女や壮年の男性だ。
皆油断なく外をうかがっている。
嵐の前の静けさというのか、外は不気味に静まりかえっていた。
緊張をほぐそうと思ったのか、青年の一群が前に出て踊り始めた。
そんな場合じゃないだろう、とは思ったが、皆と一緒に手拍子をする。
ダンシングメンバーの中にはオイツーもいた。
オイツーとはわたしの2番目の甥のことだ。ヤンキー系ホスト顔をしているが職業は船頭だ。オイツーについて書き出すと長くなるのでぜひ別の話をお読みいただきたい。
(『オイツー』『愛猫とオイツー』あたりがお勧めです。宣伝でした)
オイツー、踊れたのか、知らなかった。
オイツーの他十数名ほどが踊っていたが、皆揃いの戦闘服めいたものを着用している。
なんのコスプレかと思ったが、たしかあれは自警団の制服だ。
アンデッドがやってきた!

アンデッドが!
突然誰かが悲鳴じみた声を上げる。
外になにかがいた。恐れていたアンデッドだ。
アンデッドというからにはゾンビのようなものかと思ったが、ボディビルダーのような体格をしている。上半身に身につけているのは胸当てのついた革帯の防具だけだし、下はパンツのみだ。体は妙にピンク色をしている。腕の先は鉤爪になっている。
キ○肉マンを連想する体格といい、は虫類を思わせる顔といい、アンデッドというより、武闘系モンスターのようだ。
モンスターは窓をこじ開けようとしている。
どうでもいいが、アンデッドが襲ってくるとわかっていたのに、なぜ窓にバリケードのひとつも築いていないのか。入ってきてカモン、と言っているようなものだ。
ダンスより先にバリケードだろうオイツー、と自警団!
倉庫の中に避難していた人たちとモンスター級アンデッドの力比べが始まった。
人間は窓を開けさせまいとし、モンスターは無理にも開けようとしている。
人間が力負けするのは時間の問題に見えた。
窓を破って一番乗りのモンスターがひらりと室内に踊り入ってきた。
その姿を見てわたしは驚く。
とてもモンスターには見えない。
戦闘服を着た人間に見えた。いや、あれは人間だ。少なくとも以前は人間だったものだ。
そうだ、自警団の中でも1、2を争っていた腕自慢の青年ではなかったか。
倉庫の中に集まっていた人たちの中にそういえば彼の姿はなかった。
自警団のメンバーだったはずの青年と目が合った。暗い穴のような彼の目に、わたしは彼の身になにが起こったのかを悟った。
アンデッドに襲われる?

ど、どうすれば??
アンデッドに殺された人間はアンデッドになる。
破られた窓から次々とモンスターが入ってくる。
倉庫内にいた人間とモンスターの闘いが始まる。
わたしはがくがくと震えながら、2階の人たちを逃がさなければ、と思う。
どこに逃がそうというのか、と絶望的な気持ちになりながらも階段を駆け上がる。
1階には怒号と悲鳴が満ちている。
踊り場を曲がったところで、階段の上にひとりのおじさんが立っているのが見えた。
逃げて、とわたしは言う。
下にはアンデッドたちがいる。早く逃げて。
おじさんはくるりと振り向いた。
おじさんの片腕がない。片腕どころか肩から胸から腰までえぐるように体が削られている。その半身は血にまみれていた。
なぜあの姿で生きていられるのか。
おじさんは暗い穴のような目をわたしに向ける。
その口がぱくぱくと開く。
2階はもう血の海なんだよ、と。
おじさんはかくかくと不自然に傾きながら階段を降りてこようとする。
階段の下からモンスターが上がってこようとする気配がある。
わたしは階段の踊り場で、上に行くことも下に降りることもできずに立ちすくんだ。
大きく口を開けたが、悲鳴を上げることもできない。
ばちりとこじ開けるように目を開いた。
ばくばくと激しい鼓動をなだめるように深呼吸を繰り返す。
枕元の目覚まし時計を見ると、ベルが鳴るまでまだ小1時間ほどある。
窓の外はまだ暗い。
夢だ、夢だよ。よかった、ここにはアンデッドはいない。
寝起きとは思えないほど疲労困憊しながらわたしは思う。
そのうち夢見の悪さが原因で心臓が止まるかもしれない。
寝直すこともできないほど目が覚めたが、疲労で起きる気にもなれない。
ぐったりと目を閉じてわたしは思う。
今日も仕事だ。そして忙しい。吐くほど忙しい。
まだ一日は始まってもいない。わかっている、わかっているとも。
あなたの胸を借りて、ちょっとだけ泣いてもいいですか。