あれは一方通行の想いだったのか

子犬

わたしと”彼”の話

これは”彼”の話

あなたは自分の想いが一方通行だったことを突きつけられて悲しくなったことがありますか?
わたしはあります。

近所の家に彼はいました。(彼か彼女かははっきりしないが、おそらく名前からして『彼』であろうと思われるので、以降は『彼』と表記する)
その家の奥さんと母が仲が良かったこともあるが、我が家の近所にそのお宅はあったので『彼』がいることにはすぐに気がついた。
庭の一角の、彼のために用意された小さな家に彼はいた。

ころころの、わふわふの、顔にはちょっと黒いポイントが入っているが、全体的には茶色い、もふもふのワンコだ。
わたしは猫が好きだが、犬も好きだ。
彼はわたしを見て、その短い尻尾を懸命に振った、ように見えた。

彼はもふもふだった

わたしは彼に挨拶をし、そして彼を抱き上げた。予想通り、彼の毛皮はもふもふだった。
わたしの両手の中に、彼はすっぽりと収まった。
田舎の濃い人付き合いがあればこそ許される行いだろう。
よその家のワンコを撫でたり抱き上げたりしても、幸い咎められることはない。

それから、わたしはその家の前を通るたびに彼に挨拶をし、チャンスがあれば抱っこをした。
彼は少しずつ、だが見る間に大きくなっていく。抱き上げる重みも着実に増えていくようだった。

その日は久しぶりに彼の顔を見た。
前に見たときよりもさらに一回り大きくなっているように見えた。
「こんにちは」とわたしは声をかける。
わふ、と彼はわたしに挨拶を返してくれた、ように見えた。

いつものように抱き上げようとした。だが

一方通行だったの?

そしてわたしはそれまでのように彼を抱き上げようとした。
ずしりと腕に重みはかかるが、彼の体は持ち上がらない。え、そんなに一気に大きくなったの?
ふと見ると、彼は必死に足を踏ん張っている。
わたしに抱き上げられまいとして?

い、いやいや、気のせいだよ。だって今までだって何度も抱っこしたしね。
わたしは再度力を入れて彼を抱き上げようとした。
がしかし、彼は両足を踏ん張って、抱き上げられまいとしている。
わたしはショックを隠しきれないまま、よろりと彼の体を離した。

嗚呼、これまで彼と親交を温めてきたと思っていたのは、わたしの一方通行だったのだろうか。
わたしの想いは彼の上を通り過ぎるだけだったというのか。
今日はわたしの失恋記念日。
それからは、わたしは(ちょっとだけ)遠くから彼の成長を見守ることにした。

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