歯が割れて取れた話

口の中で異音がした

口の中で音が!

わたしは歯にはけっこう気を遣うほうだ。
定期的に歯医者にメンテナンスにも通っている。がしかし、なぜか歯関係のトラブルも多い。

ある日の夜、たしかわたしはコーヒーとお菓子をお供に本を読むという幸せな時間を過ごしていたと思う。
お菓子を食べているとき、口の中でなにやら音がした、と思った。

ちょっと表記しづらい特殊な音だ。歯が欠ける音って、なんであんなにはっきりとわかるんだろう。
わたしは口の中からそれを取り出した。やはり、間違いようもなく歯の欠片だった。

わたしはセラミックを被せている歯が前歯や奥歯に複数本あるのだが、そのうちの1本だった。
手の中にあるのは欠片というにはやや大きい、サイズとしては歯1本分ほどのものだ。ただし厚みは薄い。

お菓子を飲みこんで、そろりと舌で口中を探ってみる。
下の前歯の1本、その裏側半分が欠けているようだった。
ざらりとした感触が舌に伝わってくる。

しかし裏側半分とは、また器用な欠けかたをしたものだ。
わたしは翌朝、歯医者へ予約の電話を入れた。

歯医者へGO

歯医者へ行くときに、取れた歯をいらないだろうと思いつつ一応持っていった、が、結局やはりいらなかった。
歯はどういう治療をするかを聞かれた。どういうというのは、欠けた歯を補修するか、新たに歯を入れるかだ。

だが、だ。新たに歯を入れようと思ったら、エイイチさんが団体で飛んでいく。
金もかかるが時間もかかる。
わたしは迷わずに言った。補修でお願いします、と。

補修でお願いした歯は、その日のうちに治療が終わった。鏡で見せてもらったが、出来映えもいい。
ばっちりじゃないですか、とわたしは上機嫌で言った。

歯科衛生士のお姉さんはちょっと表情が曇っていた。
この歯にはひびが入っているかもしれません、と言った。

欠けやすいということだろうか、と思ったが、あまり深く考えなかった。
あまり固いものは前歯で噛まないほうがいいだろう、と思ったくらいだ。

それも日々を過ごすうちに次第に忘れていった。
ものを噛むときに奥歯が痛むな、次のメンテの時に言ったほうがいいかな、とかそんなことを考えていた。

そしてまたある日の夜

エ、エイイチ……

歯の補修をしてから2ヶ月ほどが過ぎた。
ある日の食事中にそれは起きた。

忘れもしない、前歯でお肉を噛んだときだ。口の中で、ずり、となにかが動いた。
歯が取れたときって、なんであんなにはっきりわかるんだろう。

わたしは恐る恐る口の中からそれを出した。
白い歯の欠片があった。欠片にしては大きい。歯の1本分はある。

とりあえず口の中のものを飲みこんで、舌でそろりと口中を探った。
覚えのある位置の歯が欠けていた。今度は表側半分が欠けている。

マジか、とわたしは思った。
とりあえず途中だった食事を続けることにした。味がもうよくわからない。

またもや、ずり、と動いたものがあった。
裏側半分も取れた。
取れた。きれいに1本分、取れた。

手の中には、2つに分かれた1本分の歯があった。
ああ、また歯医者に電話をしなくては。
エイイチが団体で飛んでいく幻が見えた。