隣人は知らない
集合住宅あるある
わたしは集合住宅に住んでいる。
昨今、賃貸の集合住宅に住んでいる人はたいていそうだろうと思われるが、他の部屋にどんな人が住んでいるかわからない。玄関の集合ポストにも部屋の前にも表札のたぐいは出ていない。わたしも出していない。
隣人の名前も知らない。というか、集合住宅の住人に名前を知っている人はいない。
部屋の作りが単身向けなので、若い人が多いんだろうなあ、というくらいだ。
もちろん顔を合わせれば挨拶はするので、なんとなく顔なじみになっている人はいる。
刑事ドラマなんかで、容疑者のアパートに駆けつけ、刑事が部屋のドアをどんどんやっていると、隣の部屋のドアが開いて顔を出した人が「お隣の○○さんなら先週引っ越しましたよ」などと教えてくれるシーンがあったりするが、今どきそんなことが実際にあるのだろうか。
とりあえずわたしは隣人がいつ入れ替わったかはわからない。
いつの間にか空いている。なんか音がするなあ、と思ったらいつの間にか新しい人が入っている、という感じだ。
すいません刑事さん、わたしは役には立てないです。
集合住宅内でのおつきあい的なものはまったくない。これを気楽と取るか心許ないと取るかは人それぞれだろうか。
わたしですか? うーん、集合住宅内に、コミュニケーションルーム的なものがあっても良かったかな、とは思う。ソファセットと自販機があるとか。コーヒーサーバーがあるとか。住人専用のジムとかあったらいいなあ。
え、そんなものがあったら家賃がいくらすると思うんだ、ですか?
あー、だよねえ。そりゃ今の家賃じゃ無理だわー。わかるー。
エレベーターホールで
おっとタイトル回収といきましょうか。
というわけで、住人同士のつきあいはほぼない。
エレベーターに乗ったときにときどき住人と行き合うこともあるが、挨拶をした後は特に会話はない。
(ごくまれにおしゃべりになることもある。同年代の女性と一緒になったときとか)
それでつい先日のことだ。外出先から戻ってきたときのことだが。
玄関から入ると、見えるところにエレベーターホールがある。
エレベーターを待っている女性がいるのがわかった。
顔が見えたわけではないのではっきりはしないが、立ち姿からいって若い女性のようだった。
このタイミングだとエレベーターに乗り合わせるな、とわたしは思った。
エレベーターは降下中で、じき1階に到着しそうだった。
わたしがロビーに足を踏み入れると、エレベーターを待っていた女性は、くるりと身を返した。と思うや、非常階段へ続く扉を開けて出て行ってしまった。
女性が出て行ったのと同じくして、ちん、という音とともにエレベーターが到着した。
どうしたんだろう、とわたしは思った。
エレベーターは到着寸前だったし、女性が到着を待てなかったということはないだろう。いきなり階段昇降運動をやりたくなったのだろうか。いやまさか。
これはあれか。やはりわたしとエレベーターに乗り合わせたくなかったということだろうか。
女性とは顔は合わなかったし、わたしの外見が避けたくなるくらい怪しいということはおそらくないだろうと思う。そのはずだ。頼む、そういってくれ。
警戒された?
警戒心と社交
となるとあれか。性別や年齢に関係なく、他人と一緒にエレベーターに乗るのが嫌だということか。
田舎とはいえ、なにが起こるかわからないことだし、そのくらいの警戒心は持っていてしかるべきだろう。
わたしにしたところで、他人と一緒にエレベーターに乗るときは多少は緊張する。
自分が何階で下りるのか知られたくないとか思ってしまう。
ときたま同じ階の住人とエレベーターに乗り合わせるときがあるが、先に降りたものか相手に先に降りてもらうか悩む。
先に降りたら部屋がどこかわかってしまうな、とちらりと思う。
まあ相手はわたしが部屋に入るところなど見ていやしないけれど。
エレベーターホールに人がいることがわかっているときは、建物に入るタイミングをずらしたりもする。
当たり前の警戒心だと思っている。
が、たまにエレベーターに乗り合わせた人とお天気の話などをすることもある。
ちょっと楽しい。
警戒心と社交の両立はちょっと難しいかもしれないが、矛盾はしないよね、たぶん。